夜を吐く肺
水没した地下墓所で、ソヴェルは最後の空気を吐いた。
天井近くの小さな隙間には、負傷したパルネが取り残されている。出口の鉄格子は水底にあり、鍵を回すには二人で潜らなければならない。
ソヴェルは胸へ爪を立て、悪魔ウルジとの契約印を開いた。
水中で一息するたび、肋骨が一本、深淵の鰓へ変わる。鰓が十二本そろえば、水は空気になり、空気は毒になる。
最初の息を吸う。
水が冷たい空気のように肺へ入り、苦しさが消えた。左の肋骨が黒く透け、脇腹に細い裂け目が開く。
二息目、三息目。
ソヴェルはパルネを抱え、沈む。彼女は息を止めたまま意識を失いかけている。
四息目で鉄格子へ着いた。鍵は錆び、片手では回らない。
五息目。右の肋骨が鰓になり、背中から黒い膜が揺れた。
六息目で鍵が半分動く。
パルネの身体が痙攣した。ソヴェルは彼女の口へ水の息を押し込み、続けて自分も深く吸った。
八本目と九本目の肋骨が続けて黒くなる。
パルネが目を開け、二人で鍵を回した。
格子が上がる。水流に押され、出口の階段へ向かう途中で瓦礫が落ちた。ソヴェルは彼女を庇い、下敷きになる。
十息目で石を持ち上げる。
十一息目でパルネを上の段へ押す。
地上の光が見えた。あと一息なら、完全に深淵の生き物になる。
「先に行け」と言おうとして、口から泡しか出ない。
パルネが戻ろうとする。
ソヴェルは十二息目を吸い、彼女を両腕で水面へ投げ上げた。
最後の肋骨が鰓へ変わる。
二人は墓所の外へ転がり出た。パルネが空気を吸い、咳き込みながら笑う。
ソヴェルも息を吸おうとした。
肺が焼けた。
空気が毒になっていた。彼は喉を押さえ、反射的に息を吐く。口から出たのは呼気ではなく、星のない夜のような黒い霧だった。霧の中で小さな歯が笑う。
脇腹には十二本の裂け目が開閉し、水を求めて震えている。皮膚の下の肋骨はすべて消え、胸は暗い洞窟のようにへこんだ。
パルネは彼を水溜まりへ運び、顔を浸した。
そこでようやく、ソヴェルは呼吸を取り戻した。
墓所から救出された二人のうち、一人は二度と地上の空気を吸えなかった。人の名前で呼ばれるたび、水面の下から黒い泡だけを返した。