夜瓜畑の星明かり

夜瓜は、星が見える間だけ熟す。

畑主のエルドは、日暮れに収穫灯を点けるだけでよかった。蔓の間を歩く星甲虫が、甘くなった実へ印をつける。すると丸い夜瓜は自分で蔓を離れ、緩い坂を転がって冷蔵庫へ入る。夜明け前には菓子商の馬車へ積まれている。

エルドは畑の柵へ背を預け、星を見ていた。

城の夜警隊にいた頃、星は時間を測る道具でしかなかった。黒い制服の肩は槍帯で擦れ、胸には警報笛の紐が食い込んだ跡がある。眠気で足がもつれても、隊長は「城が眠るぶん、お前たちは起きろ」と笑った。

畑では、ころん、ころん、と夜瓜が坂を下る。

冷蔵庫の札が光った。

《夜瓜十六玉、菓子商へ出荷。代金受領済み》

ひと晩の売上で、ひと月分の暮らしが賄える。エルドは笑い、星甲虫へ小皿の砂糖水を置いた。

夜警時代、夜は耐え抜くものだった。今は冷えた土の匂いも、葉の間を抜ける風も、朝までの長さも自分のものだ。眠くなれば寝る。その単純な自由を守るためなら、城の給金など惜しくなかった。夜を売らなければ暮らせないと思い込まされていただけで、夜瓜は星の下で勝手に実り、エルドの眠りまで奪わない。

腰の古い警報笛が、勝手に鳴った。

『西塔の夜警が欠勤した。今夜だけ戻れ』

元隊長の声が紐を伝う。

「戻らない」

『城内に賊が入ったらどうする』

「正規の交代要員を置け」

『お前ほど夜目の利く者はいない』

「だから十年、休ませなかったのか」

『忠誠心を忘れたか』

エルドは、畑の向こうに小さく見える城を眺めた。あの壁を守るため、自分の暮らしを壁の外へ追い出してきた。

「忠誠は、睡眠の代金にはならない」

『給金を二倍にする』

「今夜は星を見る」

『星など毎晩ある』

エルドは警報笛の紐をほどいた。

「だから、毎晩休める暮らしにした」

笛を柵へ掛け、音止めの栓をした。

最後の夜瓜が冷蔵庫へ転がり込み、扉がぱたりと閉じる。エルドは畑の中央へ敷物を広げ、仰向けになった。

城の鐘は遠くで鳴り続けた。彼は数えず、流れ星が一つ消えるまで、ゆっくり目を開けていた。