夢を折る弓
処刑場の四本の鎖は、それぞれ一つの夢でしか切れない。
弓兵キュレイは矢筒を開いた。矢は一本もない。代わりに胸の奥から、幼いころ見た青い海を引き出す。夢は細く固まり、銀の矢になった。
一射。
一人目の囚人を吊るす鎖が切れた。
彼女の能力《願矢》は、戦いに勝つたび未来の望みを一本の矢へ変える。矢は必ず標的を射抜くが、使った夢を二度と望めなくなる。
これまでに、故郷へ家を建てる夢を撃った。父の墓を作る夢を撃った。誰かと年老いる夢も、敵将の喉を貫いて消えた。夢を失うたび、眠りは暗くなり、目覚めても何かを待つ気持ちが減った。
今日は反乱に加担した四人の処刑を止めるため、四つの勝利が要る。
「残り三人はいい」
鎖につながれたロアナが叫ぶ。「あなたには、もう夢が少ない」
キュレイは二本目を作った。いつか自分の店を持ち、旅人へ温かい料理を出す夢。
射る。鎖が切れる。
三本目は、子どもを抱く夢だった。形になった矢は小さく、重かった。指が震える。
処刑人が斧を上げる。
キュレイは目を閉じて放った。
三人目が助かる。
最後の鎖はロアナのものだ。
「何が残ってる」と彼女が問う。
キュレイは胸を探った。海も家も家族もない。あるのは、明日どう生きるかを自分で決めたいという、形のない願いだけだった。
それを矢へする。
「やめろ!」
「あなたたちが明日を選べばいい」
最後の矢は処刑人の斧と鎖を同時に砕いた。四人が地面へ落ち、群衆が衛兵を押し返す。
勝った。
ロアナが駆け寄る。「逃げよう。海へでも、山へでも」
キュレイは首を傾げた。
「行き先を命じて」
「自分で決めて」
その言葉の意味が分からない。胸の中には、望みを作る場所そのものがなくなっていた。
彼女の瞳から色が消え、磨いた矢尻のような銀色になる。
ロアナは震える手で彼女の弓を下ろした。
「自由になったのよ」
キュレイは処刑場に跪いた。
「次の命令を」
四人の未来を射止めた英雄には、自分の明日だけが残っていなかった。