夢宛ての手紙
鵜飼重徳先生へ。
先生が亡くなったと、奥様から知らせをいただきました。
十五年も連絡しなかった私にまで届いたのは、先生が最後まで教え子の名簿を捨てなかったからでしょうか。
知らせには、奇妙な領収書の写しが同封されていました。
《願い一件 夢便にて配達》
《宛先 郡司咲良様》
裏には先生の字で、こうありました。
《この子が、自分を許す夢を見ますように》
先生は昔から、余計なことをします。卒業式の日も、返事はいらないと言いながら、便箋を三枚も渡しましたね。
私は今も、あの日のことを夢に見ます。
修学旅行の帰り、私が引き止めなければ、希和はあの交差点にいなかった。喧嘩の続きをしようなんて言わなければ、事故には遭わなかった。
先生は何度も「あなたのせいじゃない」と言いました。
私は一度も信じませんでした。
領収書が届いた夜、中学校の教室を夢に見ました。
先生は黒板の前に立ち、希和は窓際の席で頬杖をついていました。
「先生、また同じ話?」
私が言うと、先生は首を振りました。
「今日は私の話ではない」
希和が立ち上がり、私の机まで来ました。
「あの日、あんたに引き止められなくても、私はコンビニに寄ってた」
「そんなの分からない」
「分からないよ」
希和は笑いました。
「だから、ずっと自分が犯人だって決めるのも変じゃない?」
私は泣きながら怒りました。
「夢だから、何とでも言える」
「うん。夢だから、あんたが聞けることを言ってる」
先生は黒板に、大きく《許す》と書きました。
その下に矢印を二本。
一本は希和から私へ。もう一本は、私から私へ。
目が覚めると、枕元に白いチョークの粉が落ちていました。
先生。
私は、まだ全部は信じられません。
朝になればまた、私のせいだったと思うかもしれない。先生の願いは、ずいぶん効き目が短いですね。
でも今夜は、希和が夢に来ました。先生はほとんど何も言わず、いつもの汚い字で黒板を書いていました。
夢へ願いを送る店のことは、誰にも話しません。
ただ、この返事は先生の墓前に置きます。
私は今日、自分を許します。
明日の分は、明日また考えます。
郡司咲良