嫉妬ゼロの恋人
城之内澪は、恋人への嫉妬がゼロだった。
交際一年目の相性診断で、宇野暁人の恋情は八十四、独占欲は六十二。澪の恋情は七十七だったが、嫉妬だけがゼロと表示された。
暁人は笑っていたが、その日から確かめるようになった。
同僚の女性と食事へ行く。昔の恋人の話をする。わざと端末を伏せる。澪が気にしないたび、彼は落ち込んだ。
「失うのが怖くないなら、愛してないのと同じだろ」
澪は自分に欠陥があると思った。
恋愛講座で、嫉妬は相手の価値を認識する自然な反応だと教わった。想像訓練では、暁人が他人と暮らす場面を繰り返した。胸を締めつける音楽を聴き、睡眠を減らし、不安を増幅する香りも使った。
嫉妬は二十三まで上がった。
澪は暁人の予定を聞き、端末を見せてほしいと言い、返信が遅いと眠れなくなった。暁人は「やっと普通の恋人になった」と喜んだ。
だが、ある夜、暁人が本当に別の女性と会っていたことが分かった。嫉妬を引き出すため、相手に頼んで親密な写真を撮ったという。
澪の嫉妬は七十一まで跳ね上がった。同時に、信頼が九十から六へ落ちた。
「ほら、愛してたんだよ」
暁人は安心したように言った。
澪はその場で別れた。
彼を誰かに取られることが嫌だったからではない。自分の心を実験台にされたことが嫌だった。別れたあと、嫉妬は三日でゼロへ戻ったが、傷は半年消えなかった。機械が同じものとして扱わない感情にも、痛みはあると知った。AIは別れの理由を〈高嫉妬による衝動〉と記録したが、澪は訂正申請をしなかった。
数年後、澪は別の人と暮らし始めた。相手の牧瀬周防は、診断結果を見る前に尋ねた。
「嫉妬、低いんだっけ」
「ゼロ」
「よかった。僕も監視されるの苦手」
周防が友人と出かける夜、澪は一人で映画を見た。失う怖さがないわけではなかった。ただ、怖さを相手の自由に換えたくなかった。
端末の恋情は六十八までしか上がらなかった。
二人はその低さを、安心して長く保った。診断の更新日は、毎年忘れることにした。