学位より正しい土の色
王立農学府で、カヤトの研究は三年連続で落第になった。
理由は簡単だ。魔物を倒せないから。
彼が作った《土見匙》は、すくった土に足りないものを色で示す。水なら青、灰なら白、腐葉土なら緑。教授たちは「土の顔色を窺って国が守れるか」と笑い、匙ごと辺境へ追放した。
着いた畑は、見た目だけなら黒く肥えていた。前の開拓者もそう思ったのだろう。だが何を植えても芽が出なかったと記録にある。
教授は色の濃い土を「豊穣」と決めつけ、銀匙の検査を一度も許さなかった。農民が持ち込んだ枯れ苗も、育て方が悪いの一言で返した。
カヤトはその苗を捨てられず、荷袋に一本だけ入れてきた。根はまだ白い。今日整える場所へ植えれば、間に合うかもしれない。
カヤトは初日に一列だけ調べることにした。
匙で土をひとすくいする。
銀の皿が、鮮やかな白に変わった。
「灰不足か」
焚き火跡から木灰を集める。もう一度すくうと、今度は薄い青。井戸水を一杯だけ運び、土へ混ぜた。三度目は黄色になった。鶏小屋に残っていた卵殻を砕き、粉にして撒く。
色が次々変わるのを見れば、講義など要らない。土が必要なものを、自分で答えている。
最後に匙を入れると、皿は透明になった。足りないものなし。
カヤトはその一列へ蕪の種を撒き、持ってきた苗も端へ植えた。傾いていた茎が、土を寄せるとわずかに起き上がる。
手のひらで土を押さえた。指先から、湿り気と灰の温かな匂いが上がる。
作業を終えると、残った卵を鉄鍋へ割った。白身がじゅっと広がり、縁が泡立つ。硬いパンを添えたところで、学府の転送筒が唸った。
『全実験区で発芽不良。貴殿の仮説を再審査する。資料とともに帰還せよ』
再審査。謝罪ではない。
カヤトは封書を開かず、土見匙の下へ置いた。銀の皿が傾かず、ちょうどよい。
「土はもう答えた」
卵の黄身へパンを浸す。外では、整えた一列だけが夕日を柔らかく受けている。
学位は与えられなくても、明日ここから芽が出る。その予測は、教授全員の署名より確かだった。