封をしない手紙
返事の手紙には、封をしなかった。
彼からもらった告白への答えは、どこから読んでも変わらない。
『ごめんなさい。恋愛として好きにはなれません』
それでも封筒へ入れ、のりを塗る直前で手が止まった。
翌朝、下駄箱へ入れようとすると、彼が来た。
「それ、返事?」
逃げられなかった。
私はうなずき、封の開いたまま差し出した。
彼はその場では読まなかった。
「一緒に外へ出てもいい?」
校門脇の桜はまだ蕾だった。僕らは自転車置き場の端まで歩き、誰もいないベンチへ座った。
彼は手紙を開いた。短い文章を、急がず最後まで読んだ。
「分かった」
それだけ言った。
私は用意していた説明を始めた。嫌いではない。話すのは楽しい。告白されて迷った。でも期待させるのは違うと思った。
「もういいよ」
彼は笑おうとして失敗した。
「ちゃんと書いてくれたから」
沈黙が落ちた。朝練へ向かう足音が、フェンスの向こうを通り過ぎた。
「手紙、返す?」
「持ってて」
「捨ててもいい?」
その質問に胸が痛んだ。断ったのは私なのに、忘れられるのが怖いと思ってしまった。
「いいよ」
答えると、彼は手紙を四つ折りにした。けれど捨てず、制服の内ポケットへ入れた。
「今日から話さないほうがいい?」
「それも、あなたが決めていい」
「ずるいな」
「ごめん」
彼はしばらく考えた。
「じゃあ、一週間だけ避ける。そのあと普通に戻れるか試す」
あまりに具体的で、少し笑った。
「一週間?」
「七日あれば、だいたいのテスト範囲は忘れるから」
「それは困る」
「恋も同じかもしれない」
冗談にできるほど、まだ痛みは浅くなかった。それでも彼は立ち上がった。
一週間、本当に話さなかった。席が近いのに目も合わせなかった。
八日目の朝、私の下駄箱に小さな紙が入っていた。
『普通に戻る練習、一日目。英語の宿題どこ?』
私は裏へページ番号を書き、彼の机へ置いた。
元通りにはならなかった。告白の前の関係は、もうどこにもない。
けれど春には、違う形で話せるようになった。
封をしなかった手紙のように、終わりを完全には閉じなかったからだと思う。