小鬼技師の石垣
王都土木局で働いていた小鬼族のモルグは、人間より背が低いという理由で設計図に名前を載せてもらえなかった。
抗議すると、温泉が川岸を削り続ける辺境の土地を押しつけられた。
現地では、湯が土手へ流れ込み、今にも小屋の基礎を崩しそうだった。
モルグは鼻を鳴らす。
「大橋を三本支えた技師に、石垣一間とは楽な初日だ」
作るのは、源泉側の短い石垣だけ。
王都の大橋では、モルグが夜通し計算した荷重表を人間の上司が自分の成果として提出した。開通式にも呼ばれなかった。それでも橋が落ちなければよいと思っていたが、名前のない仕事ばかりでは心まで削れる。今日積む石には、自分の手跡が残る。小さくても、誰が守った土地か隠す必要はない。
川原の石を大きさ順に並べ、下へ平たいもの、上へ小さいものを置く。隙間には砕石を詰め、湯の圧が逃げる穴を二つ残した。小鬼の体は低い場所の作業に向いている。人間が腹ばいになる隙間でも、モルグは真っすぐ槌を振れた。
最後の楔石を叩き込む。槌を離して耳を当てると、石同士が低く締まる音がした。上から押しても横から蹴っても動かない。小さな壁には、計算どおりの重さが宿っていた。
ごう、と流れていた湯が石垣に受け止められ、横の古い浴槽へ導かれた。土手は削れず、湯面だけが静かに上がる。
モルグは石垣へ片足を置き、びくともしないことを確かめた。それから浴槽へ入り、尖った耳まで湯気に埋める。石の匂いと、温められた苔の匂いがした。
焚き火では栗が焼け、殻がぱん、と弾ける。皮を剥けば黄金色の実から甘い湯気が立った。
土木局の役人が、局長名義の召喚状を持ってきた。
「王都の新橋が傾きました。設計主任として戻れとのことです」
「設計図に名前は載るのか?」
役人は黙った。
モルグは召喚状を開かず、平石の上へ置いた。
「なら、その橋より先に、この栗を救う」
熱い実を半分に割る。夕日を受けた石垣は低いが、確かに土地を守っていた。
名前のない大橋より、自分で積んだ一間のほうが、ずっと誇らしかった。