屋上の火花

夏祭りの夜、賃貸マンションの屋上から花火が上がった。

打ち上げたのは七〇四号室の武蔵野原迅雅。友人を十人集め、音楽を流し、住宅街へ向けてロケット花火まで飛ばしていた。

最上階の住人・岩城森聖羅が止めるよう頼むと、迅雅は缶ビールを掲げた。

「屋上は住人の共有スペースだろ。祭りの日に騒げないなら、何のための屋上だよ」

直後、火花が隣家のベランダへ落ち、干してあった布へ焦げ跡を作った。

迅雅は、自分たちの花火ではないと言った。

「町中で上がってる。証拠がないなら言いがかりだ」

消防署と大家が翌朝、現場を確認した。

屋上入口のカメラには、迅雅たちが花火箱とスピーカーを運び込み、施錠されていた設備区画の鍵を工具でこじ開ける姿が映っている。屋上の気象観測カメラには、ロケット花火が隣家方向へ飛ぶ軌道まで残っていた。撮影時刻と風向きも、焦げ跡ができた時刻に一致している。

隣家のドアカメラも、同じ火花が落ちる瞬間を撮影している。

迅雅は「火災になっていない」と笑った。

消防署員が焦げた布と屋上の燃え残りを比べる。同じ種類の火薬片が付着しており、風向きと時刻も一致した。

「事故が小さかったのは幸運であって、行為が安全だった証明ではありません」

大家は契約書を開いた。屋上への無断侵入、火気禁止違反、設備損傷、深夜騒音、他人の財物への危険。迅雅は以前にもベランダで花火をして警告されていたため、契約解除を通知する。

迅雅は聖羅へ言った。

「祭りを台無しにしたのはそっちだ。友達の前で恥をかかせた慰謝料を払え」

聖羅は、隣家から預かった焦げた子ども用の浴衣を見せた。

「恥で済んだから、よかったんです」

警察が設備区画の破損と火花の飛散について相談を受け、動画データを保全した。友人たちも、自分たちは迅雅に許可済みと聞かされたと証言した。

屋上の鍵が交換され、迅雅の明渡期限が記された瞬間、祭りの夜を独占した男だけが、次の夏までいられる場所を失った。