履歴のない十二

久保寺晴は、透明スリーブから十二の紙札だけを抜き、丹生谷萌の四と中身を入れ替えた。

二人のスリーブは卓上から一度も動かない。伊佐木昭久は七をスリーブごと萌へ渡し、交換履歴の表示を一回にした。

壁の規則は一つだった。

〈全員が一度カードを交換した後、交換履歴が〇回と表示されたカードを持つ者を解放する〉

一見、矛盾した条件だった。全員が交換すれば、どのカードも履歴一回になる。主催者は、四枚目として中央に置かれた零のカードを奪い合せるつもりだった。零だけは未交換で、手にした者が勝つ。

晴は中央札へ手を出さず、スリーブを観察した。交換履歴を記録するICチップは、紙ではなく透明スリーブの角に埋め込まれている。

「カードは中の紙でしょう」と晴は言った。「スリーブは保護具」

彼女は十二と四の紙札を交換した。萌の手元には十二、晴には四。しかし晴はすぐ、交換で受け取った四を自分の元のスリーブへ入れる。彼女が持つスリーブの履歴表示は〇回のまま。

『カード識別番号はスリーブにあります』

「それは機械の都合。規則はICスリーブを交換せよとは言っていない」

萌も履歴〇回のスリーブを持つ。中には十二。二人とも勝者になれるはずだった。

残り一分、昭久は中央の零を奪い、七と交換箱へ入れる。中央札の履歴は一回となり、彼の計画は崩れた。焦って晴のスリーブを奪おうとするが、個人区画の透明壁に阻まれる。

終了ベル。

〈交換履歴〇回。久保寺晴、丹生谷萌〉

二つの首輪が緑になる。

『勝者は一名です』

「規則は一名と書いていない」と晴。

萌は十二の紙札を掲げた。

「交換したのは確かよ。私が持っていた四は、晴さんのところにある」

晴は四を隣の透明壁へ重ねる。二枚の紙だけが、スリーブを置き去りにして持ち主を変えていた。

「主催者は、機械がカードと呼ぶものを、人間もカードと呼ぶと思った」

出口が二つ開く。履歴〇回の表示は、交換の証拠ではなく、定義を間違えた証拠として光っていた。