山芋を丸めない

狩野聡介は、明日から義肢装具の工房で見習いになる。昨日までは宅配便の配達員だった。

 義足を使う叔父の付き添いで工房を訪れたとき、職人が膝をつき、わずかな当たりを何度も削る姿を見た。それが転職のきっかけだった。配達の仕事にも誇りはあったが、荷物を渡した先に残るものを作ってみたくなった。

 二年前、荷台の扉へ右手を挟み、薬指が以前のようには曲がらなくなった。運転や荷物運びには困らない。だが、細かなやすりがけや革の縫製をする仕事では、弱点になる。

 見習いの給与は配達員時代より大きく下がる。二十九歳で一から覚えることを、友人には『手に職だから』と強く言い切ったが、本当は一年続けられるかも分からない。

 面接では怪我のことを話した。工房の親方は手を見て、「工夫すれば使える」と言った。それでも聡介は、初日から遅れを取れば、採用を後悔されると思っている。今夜、指を固定する市販のサポーターを買った。隠すように動けば、普通に見えるかもしれない。

 居酒屋「木型」で、店主は山芋の落とし揚げを作っていた。すりおろした山芋を匙ですくい、形を整えず油へ落とす。白い塊の周りで泡が勢いよく弾け、海苔と出汁の匂いが熱い空気に混じった。揚がったものは丸でも四角でもなく、それぞれ違う突起を持っていた。

「そろえないんですか」

「匙から落ちた形でいい」

 店主は一番いびつなものを皿へ載せた。

 聡介はサポーターの袋を開け、また閉じた。怪我を隠せば、親方は両手が同じように動く前提で教えるだろう。できない動作が出るたび、言い訳を重ねることになる。

 明日の朝、最初に右手を見せ、どの工具なら握りやすいか相談することにした。できないと決めつけてほしくはない。だからこそ、できるふりもやめる。工房で本当に職人になれるか、指が長時間の作業に耐えるかは分からない。

 落とし揚げの尖った端はかりっと砕け、中心はふわりと柔らかかった。形の違う部分ごとに火の入り方も違い、最後の一口だけ、出汁の熱が濃く残った。