市場裏の小さな住所

城下市場では、孤児のニコたちが閉店後の露店で眠った。雨の日は肉屋の庇、晴れた日は果物箱の間。店主は親切だったが、毎晩「今日はここでいい?」と許可を取らなければならない。

市場管理官マルティナは、空いている計量倉庫の二階を住居へ変えることにした。

「場所代を上げるのか」

露店主たちが警戒する。

「通路に面した間口一歩につき、営業日だけ銅貨半枚。休業日はゼロ。角地だから二倍、古参だから免除、という例外は廃止する。集めた金の七割を住居、三割を市場の雨樋へ。全店舗の間口と負担額を同じ地図に書く」

役所の直営売店も最大の間口分を払った。狭い店ほど軽く、広い店ほど多い。露店主たちは地図を囲み、自分で歩幅を測り直した。誤りが一件見つかると、マルティナはその場で訂正し、謝罪まで掲示した。制度が正しいのではなく、直せることが信用になった。

大商店が荷車を間口の前へ置き、「ここは営業面ではない」と半分に申告した時も、露店主たち自身が反対した。荷車を動かせば通路が広がる。店主は諦めて正しい幅を払い、代わりに雨樋の位置へ意見を出した。負担する者が、使い道にも発言できる仕組みだった。

翌日から、果物屋は木箱を棚へ、肉屋は丈夫な鉤を物干しへ、文具屋は机を提供した。ニコたちは市場の掃除を申し出たが、それは別契約にして賃金を払った。住居費との相殺は禁止した。

子どもたちは建物の名を「保護舎」ではなく「二番地の家」に決めた。部屋には鍵付き収納と、店主が勝手に立ち入れない規則ができた。最年少の子が夜泣きしても退去理由にしない。苦情は管理人ではなく住人会へ届く。

完成後、役所は初めて子どもたちの正式な住所を登録した。

数日後、配達人が階段を上ってきた。手には小さな包みがある。

「市場裏二番地、ニコさん」

呼ばれた少年は、何度も宛名を確かめた。中身は遠い町へ奉公に出た姉からの手袋だった。

市場の鐘が鳴り、店が一斉に開く。

その上で、誰にも畳まれない布団が朝日を受けていた。