帰還札を配る女
深緑ギルドで、ハリエは討伐より先に帰還札を配った。
紙片へ名前を書かせ、退路を確認し、帰らない者がいれば自分で迎えに行く。彼女の仕事は失敗した遠征の後に始まるため、英雄たちは縁起が悪いと嫌った。
貢献度は二%。救助部門長ゼルドは、予算会議で鼻を鳴らした。
「勝てば救助など不要だ。敗北を前提にする者へ席はない」
救助窓口は閉じられ、ハリエは未使用の帰還札を箱へしまった。
ほどなく、ゼルド自身が率いる精鋭班が地下水路で消息を絶った。勝利を前提にしたため、退路の印も、集合場所も決めていなかった。
ギルドは追加の討伐班を出そうとした。ハリエは門前で止めた。
「敵を倒しに行けば、帰れない人が増えます」
権限を失った彼女の言葉を、誰も聞こうとしない。そこでハリエは帰還札の箱を抱え、単独で水路へ入った。
彼女は戦わなかった。壁についた濡れた手形、油の切れた灯りの匂い、流れに逆らう布切れを追った。崩落の奥で、精鋭班は魔獣ではなく増水に閉じ込められていた。
ハリエは持ってきた札を全員の胸へ結んだ。
「これは転移札じゃない。帰ると決めた人の目印です。互いを見失わないで」
彼女は先頭ではなく最後尾を歩き、遅れる者の呼吸に合わせた。精鋭班は誰も置かず、地上へ戻った。
担架の上のゼルドは、弱々しく笑った。
「救助係へ戻してやる。今回は役に立った」
ハリエは濡れた帰還札を彼の胸から外した。
「勝った人だけを評価する場所では、帰れなかった人は永遠に数字になりません」
門の生還管理核がすべての帰還札を読み込んだ。諦められかけた者、再び歩けた者、仲間を置かずに済んだ遠征。彼女が連れ戻した未来が光った。
救出された者たちは、濡れた帰還札を救助窓口へ置いていった。紙片は勲章より薄いのに、そこには帰ると約束した名前がある。閉じられていた窓口の前に、長い列ができた。
ハリエは救助部門へ、危険な遠征そのものを止める権限を求めた。救難が鳴ってから走るだけでは遅い。退路のない計画は、英雄が率いていても差し戻す。
ゼルドが自分は救助対象ではないと抗議すると、胸に残った札が淡く光った。誰も登録を外そうとはしなかった。
《生還支援・真正査定》
旧評価 二% → 真値 九十七%
総合貢献順位 首位:ハリエ
役職更新 救助係 → 生還局長
旧救助部門長ゼルド → 救助対象登録