幽霊を両親にした夜
古い屋敷に一人で住む筧納深央は、恋人の家族を迎える前に、同居する幽霊たちへ頼んだ。
「今夜だけ、僕の家族のふりをしてほしい」
鎧武者の幽霊が胸を張る。
「父を務めよう」
明治時代の女学生が手を上げる。
「母になります」
「年齢差が逆だけど」
「死後は数え方が自由です」
座敷童子は弟役を希望した。
恋人の満瑠と両親が到着した。
鎧武者は正座して言う。
「娘御を息子の嫁にいただきたい」
深央が小声で訂正する。
「お願いする側は僕」
「戦では先手が大事だ」
満瑠の父は感心する。
「古風なお父様ですね」
女学生は紅茶を出した。
「息子は幼いころから良い子でした」
深央が耳打ちする。
「僕が越してきたのは三年前」
「家族の思い出が必要でしょう」
「事実も少し必要」
座敷童子が廊下を駆ける。満瑠の母が尋ねる。
「弟さん、おいくつ?」
「百二十くらい」と深央。
「十二歳です」と女学生。
「ゼロを一つ多く」
「長生きの家系で」
会話は怪しさを増した。
父が鎧武者へ尋ねる。
「お仕事は」
「かつて主君の首を守った」
「警備関係?」
「今は床の間勤務」
母が女学生へ聞く。
「ご主人との出会いは」
「彼が討ち死にした二百七十年後」
深央が咳き込む。
「年の差婚です」
「差が歴史教科書並みですね」
満瑠はなぜか平然としていた。
食事の途中、鎧武者の兜が透け、女学生の足が畳を通り抜けた。深央は観念する。
「ごめん。僕の家族ではなく、この家の幽霊です」
満瑠の両親は顔を見合わせた。
父が名刺を出す。
〈満瑠心霊相談所 家族霊専門〉
「娘から聞いていました」と父。
「今日は結婚の挨拶と、同居霊への正式なご挨拶です」
母は幽霊たちへ菓子を供えた。
「息子さんを家族同然に守ってくださったそうで」
鎧武者は涙をぬぐった。手は頬を通り抜けた。
満瑠の母は、結婚式の席順表を取り出した。
「お父様は新郎父席、お母様はこちら。弟さんには子ども料理を」
座敷童子が頬を膨らませる。
「百二十歳なのに」
鎧武者が深央の肩へ透けた手を置いた。
「息子よ、娘御を泣かせるな」
「今度は役ではないんですね」
「父とは、名乗った時から役ではない」
家族のふりをした幽霊は、その夜、本当に親族席へ招かれた。