幽霊海峡の航海日誌

沈没船三隻を救った航路について、船長ドルヴェ・サントは海軍審問所で堂々と証言した。

「幽霊海峡の霧を読み、私が旗艦を導きました」

航海士カヤン・フォスは証言台の外に立っていた。潮の逆流を計算し、暗礁の間へ一本の道を見つけたのは彼だ。ドルヴェは入港後、航海日誌を奪い、署名欄を削った。

「若造は羅針盤を磨いていただけです」

提督が厚い日誌を示す。

「船長の証言を公記録にする。全頁があなたの筆であると宣誓し、最終頁へ署名せよ」

ドルヴェは迷わず羽根ペンを走らせた。

「全記録に責任を持ちます」

署名の瞬間、日誌の黒インクが青と緑に分かれた。

海軍用紙は、波で滲んでも筆者を判別できるよう、書いた者の脈拍を色として保存する。最終宣誓は、隠された筆跡層を開く鍵だった。

救助夜の頁が青く光る。

――筆者、カヤン・フォス。北東潮、七分後に反転。

――暗礁間隔、二十六歩。三番帆を畳む。

――救難船へ灯火信号。右へ二度。

一方、緑に変わったドルヴェの文字は、入港後の追記だけだった。

――指揮、船長ドルヴェ・サント。

削られた紙片の跡から、音声封蝋も開く。

『日誌を渡せ。船長の名でなければ褒賞は出ない』

『救助船員への分配も、筆者名で決まります』

『だからおまえの名を消す。反抗すれば、海峡で臆病風に吹かれたと報告する』

ドルヴェは日誌を閉じようとした。だが最終頁へ自分で署名した以上、全頁の公開が終わるまで閉じられない。

「船長が責任を取るのだから、功績も船長のものだ!」

提督は冷たく返した。

「責任を取ると、たった今、宣誓したな」

カヤンは日誌から切り取られた自分の署名片を机へ置いた。紙は青く光り、本来の位置へ吸い寄せられる。

救われた三隻の船長が、傍聴席で同時に帽子を取った。霧の中で頼った二度の灯火信号を、掌で静かに再現する。カヤンが返礼すると、青い筆跡が日誌の全頁を一本の航路のようにつないだ。

海軍法務官が命令書を開いた。

「ドルヴェ・サント。航海記録改竄、褒賞金詐取未遂、部下脅迫により、船長職を剥奪し逮捕する」