底なし鞄の四つ目の角

エフィの魔法鞄は、椅子一脚で満杯になった。

本来なら荷馬車三台分を収める《底なし鞄》だ。ところが昨日から中が狭まり、預かった荷を吐き出す。配達先では宝石箱が入っていないと疑われ、明日までに全品を運べなければ盗難扱いされる。荷主の一覧には絨毯、銀食器、宝石箱の三十七点。吐き出されたのは三十六点だけだった。エフィは空の鞄を何度逆さにしても、赤い宝石箱だけが出ない。巡回兵へ届ける前に直せる店を探し、鞄を抱えて町を半周してきたのだ。肩紐には焦った爪跡が残っていた。

修理店《奥行き》のブラムは、鞄へ手を入れなかった。中で迷えば腕だけ帰らないこともある。

代わりに外側の四隅を測る。三つは直角。左下だけが、ほんの爪一枚分つぶれていた。

魔法鞄は四隅を入口にして、内部へ箱形の空間を広げる。一角が折れたことで中身も三角形に畳まれ、容量が縮んでいた。

「踏みました?」

「荷車にひかれました」

「鞄でよかったですね」

ブラムは角の縫い目をほどき、内側へ細い鯨骨を差した。力任せに広げれば空間が裂けるため、糸を一目ずつ戻しながら、四つ目の角を起こす。

鞄が一度だけ大きく息を吸った。

試しに作業用の金床を入れる。すとん、と消えた。続いて椅子、脚立、棚板まで入り、鞄は片手で持てる軽さのまま。

「宝石箱は?」

エフィが青ざめて尋ねる。

ブラムが底を二度叩くと、鞄は小さなくしゃみをして、赤い宝石箱を吐き出した。折れた角の裏へ挟まっていたのだ。封印は切れていない。箱の角にも傷一つなく、荷主の赤い蝋印が朝と同じ形で残っていた。

エフィは箱を抱きしめ、すぐ鞄へ戻した。

「盗んでいなかった」

「鞄も、あなたも。ただ角がへこんでいただけです」

彼女は配達一件分の報酬を置き、今後の角当てを四枚注文した。

鞄を肩へかけると、先ほどの金床まで入っているのを思い出して慌てて戻す。それでも笑いながら走り去った。

ブラムが金床を元へ運んだ瞬間、店のベルが鳴り、巨大な旅行箱が入口につかえた。