影を削った日時計

砂都メルカの降伏期限は、敵将の携帯日時計が夜明けを示すまでだった。

青銅の盤に細い針。東の丘から最初の光が差せば、影が朱線へ触れる。その瞬間に門が閉じていれば総攻めとなる。

星見役パヴァン・オルは、交渉の席でその日時計を預かった。時刻を確かめるためという名目だった。敵将は砂漠の男だが、星を読めない。盤の数字を信じている。

パヴァンは針を曲げなかった。傷をつければ細工と分かる。代わりに三本ある脚の一つを、爪ほど削った。盤は東へわずかに傾き、影が朱線へ届くのが遅れる。

稼げるのは二十分。城下の子ども二百人が北洞へ入る時間だった。一人が洞へ消えるのに六息。遅れれば、後ろの者から門外へ残る。

夜明け前、敵将は自ら城門前へ来た。日時計を石卓へ置き、パヴァンを横に立たせた。

「盤が傾いている」

見抜くのが早かった。

「石卓が傾いています」

「昨日は真っ直ぐだった」

「昨日と同じ石ではない」

敵将は盤を持ち上げ、脚を指でなぞった。削り跡は砂で磨いたが、青銅の色が新しい。

「お前が削った」

「砂が削った」

「砂は一晩で青銅を食わぬ」

「城は一晩で国を食います」

敵将の拳がパヴァンの頬へ入り、歯が一本落ちた。日時計は水平な盾の上へ置き直される。東の空が白い。正しい盤なら、あと数分で朱線へ触れる。

失敗だった。

パヴァンは血を吐き、盾の縁を見た。敵兵の左腕に固定され、呼吸ごと上下している。水平ではない。兵は緊張で踵を浮かせ、盤を西へ傾けていた。削った脚と逆の傾きが重なり、影はまだ遅れる。

「動くな」

パヴァンが言った。

敵将は兵を睨んだ。時を測るため、男は息まで止める。

東丘から光が差した。影が盤上を伸びる。朱線の手前で止まった。

「まだだ」

パヴァンは言った。

敵将は空と盤を見比べた。自分の道具を疑えば、全軍の前で迷いを見せる。盤を信じれば、もう少し待つしかない。

「影が触れるまで攻めるな」

命令が包囲陣へ走る。

その二十分を使い、メルカの北洞門が開いた。