後悔の為替レート
給料日の銀行には、後悔を現金へ替える自動販売機が並ぶ。発生から一日以内は一万円、百日を越えると百円、十年を越えると一円になる。ただし、今も利益を得ている選択は換金できない。他人の後悔を持ち込むと、同額が口座から引かれる。
諸星は家賃の不足分、二万三千円を作るために列へ並んだ。財布には後悔を書いた紙が四枚ある。
一枚目は〈三年前、安定した会社を辞めた〉。機械は〈現在も自由時間を取得中〉として返した。二枚目は〈共同創業者を止めなかった〉。〈所有者不一致〉と表示され、口座から百円引かれた。
後ろの老人が「主語は自分にした方がいい」と教えた。諸星は礼を言い、三枚目の文を直す。
友人と始めた会社は、半年前につぶれた。最後の資金調達で、諸星だけが連帯保証を外していた。友人には言わなかった。法律上は問題なく、友人も気づかないまま署名した。今、諸星はアルバイトをし、友人は毎月返済している。
〈連帯保証を外したことを言わなかった〉
機械は紙を読み、画面に〈利益継続中。換金不可〉と出した。諸星は笑った。家賃が払えないのに、まだ利益を得ているらしい。
最後の紙は、今朝書いたものだった。
〈返済を手伝うと連絡しなかった〉
発生から七時間。理論上は一万円になる。だが投入すると、機械は〈後悔は行為ではありません〉と返した。しなかったことは、まだ今日中にできる。
諸星は列を離れ、銀行の外で友人へ電話した。留守番電話に、今月から半分払うと吹き込む。口座残高では足りない。だが話したあと、三枚目の紙をもう一度入れると、利益継続の表示が消えた。
商品口から出たのは二万三千円ではなく、穴の四角い五十円玉一枚だった。今日のレート表にない硬貨だ。穴には、二人で会社を作った日に割った割り箸の細い破片が通され、銀行の床まで届くほど長い赤い糸を引いていた。
諸星が硬貨を財布へ入れると、赤い糸は銀行の自動ドアを通り、電話をかけた方角へ伸びた。切ろうとしても鋏の刃が四角い穴を通るだけだった。五十円玉の表面には新しい日付が浮かび、その下で割り箸の破片が細い署名のように震えていた。