戦えないほどの戦利品
金級パーティー《暁の牙》は、最初の小鬼から逃げた。
前日に大迷宮の宝箱を開け、金貨、銀像、魔鉱石を一つ残らず持ち帰ろうとしていた。荷物持ちアイロを追放したぶん、戦士ディーンたちが自分で背負えば分け前が増える。そう考えた。
小鬼が茂みから飛び出す。
「陣形!」
ディーンは剣を抜こうとしたが、背中の銀像が肘へ当たった。魔術師は金貨袋の重みで詠唱姿勢を取れず、斥候は魔鉱石を詰めた靴袋につまずいた。
「荷を降ろせ!」
革紐は、ほどけないよう全員が三重に結んでいた。
アイロなら、戦闘用の重量と売却用の重量を分け、各人の利き腕側を空けていた。敵の気配がすれば、一本の紐で戦利品袋だけ切り離せる。彼が「これ以上は持てない」と止めるたび、ディーンは怠けたい言い訳だと思っていた。
たった三匹の小鬼が石を投げる。普段ならディーン一人で片づけられる相手だ。だが背負った財宝は鎧より重く、逃げるたび金貨が袋の中で嘲るように鳴った。金級冒険者たちは、宝を背負ったまま坂を転がった。結局、銀像を谷へ捨てて逃げる。欲張って持ち出した最初の戦利品が、最初に失った戦利品になった。
そのころアイロは、古物商ペルラの護送隊で積荷を量っていた。
「護衛の右腕側は空けます。襲撃時に外す荷は赤紐です」
模擬襲撃の鐘が鳴る。護衛たちは一息で赤紐を引き、身軽になって剣を構えた。壺も絵画も、衝撃を受けない内側へ残っている。
ペルラは算盤を弾き、笑顔になった。
「破損ゼロ、護衛の準備は七秒。君が減らした荷のぶんより、守れた商品のほうが十倍高い」
彼女はアイロを《護送積載士》として利益配分へ加えた。
町へ戻ると、泥まみれのディーンが店先で待っていた。
「アイロ、帰ってこい。残りの宝を回収する。今度は持てないと言っても聞いてやる」
「聞いてやる、ですか」
「分け前も半人前から一人前に戻す。十分だろう」
アイロは新しい護送契約書を畳み、ディーンへ返事をした。
「迷宮出口で追放された時点で、暁の牙との積載契約は終了しています」