手すりの向こう

湖畔の共同浴場には、石段が十三段あった。

若者には景色のよい階段だったが、杖を使う者や戦で脚を失った者には壁だった。退役兵の領主グレンも、就任初日に二段目で転びかけた。

「新しい税は取りません」

翌日の集会で彼は言った。

浴場税の十分の一は、毎年「飾り費」として花冠や祭礼旗に使われている。そのうち半分を三年間、緩やかな坂と手すりへ回す。祭りをやめるのではない。旗を五十本から二十五本へ減らすだけだ。

「伝統を削るのか」と祭礼係が叫んだ。

グレンは前年の帳面を開いた。

「十三段を上れない二十七人も税を払っている。使えない浴場の飾りに、彼らの銅貨が入っているほうが伝統に反する」

使途変更は一人で決めず、納税者全員の公開投票にした。賛成票、反対票、棄権票を色石で数え、その場で壺を割って確かめる。結果は賛成六十八、反対十九。差額、工期、石材の価格まで壁に掲示された。

工事が始まると、反対した祭礼係も石を運んだ。

「決まったなら、みっともない坂にはさせん」

船大工は水に強い手すりを削り、子どもは坂の端へ滑り止めの小石を埋めた。グレンは命令せず、自分も片脚を引きずって土を均した。

完成の日、最初に坂を上ったのは車輪椅子の老女だった。皆が押そうとしたが、彼女は首を振り、手すりを掴んで自分の速さで進んだ。

十三段の上にあった扉へ、同じ高さの道が届く。

老女は湯へ入る前、杖を新しい低い鉤へ掛けた。隣にはグレンの杖も掛かった。

祭礼係は残った二十五本の旗を坂沿いへ等間隔に立てた。飾りが減ったのではなく、道を示す役目を得たのだ。投票で反対した者の名も記録から消されなかった。決定後に協力したことも同じ欄へ書かれた。老女は途中で二度休み、そのたび旗の影に腰を下ろした。誰かに抱え上げられるのではなく、自分で進める設備こそ、税を払った彼女の取り分だった。

外では二十五本の祭礼旗が風を受けていた。半分になったはずなのに、その下を通れる人は以前より多かった。