折り目のある介護ベッド
叔母の露美は、祖母の部屋をいつもホテルのように整えている。
白い介護ベッド、花柄のカーテン、吸い飲み、加湿器。私は訪ねるたび写真を撮り、家族のグループへ送った。遠方の親戚が安心できるようにするのも介護だ。私は毎回、露美へ季節の花や新しいシーツを贈った。祖母への見舞いのつもりだったが、露美はすぐ白い部屋へ飾り、写真を返してくれた。画面越しのほうが、私は安心できた。祖母の声を聞きたいとは、一度も頼まなかった。祖母が好きだった音楽も、写真では分からないから持っていかなかった。
ただ、ベッドのシーツには中央の折り目がまっすぐ残っていた。祖母は寝相がいいのだと露美は笑った。酸素チューブも袋に入ったままだったが、予備を清潔に保っているのだと思った。
祖母本人にはなかなか会えない。デイサービス、昼寝、診察。露美は「今は疲れているから」と私を部屋の前で止めた。代わりに、眠っている祖母の写真を後で送ってくれた。顔だけの写真で、背景はいつも暗かった。
ある夜、近くで停電があり、私は懐中電灯を届けに行った。露美は不在で、台所の奥から咳が聞こえた。
祖母は物置同然の小部屋で、薄い折り畳みマットに寝かされていた。暖房はなく、オムツの袋と古新聞が壁まで積まれている。きれいな部屋は、ケアマネジャーや親戚が来た時だけ祖母を移すための「面会室」だった。
「本当に使わせたら汚れるでしょう」
戻ってきた露美は、悪びれずに言った。介護用品は高い。見栄えを保てば行政も親戚も口を出さず、祖母も知らない人に連れていかれない。毎日食事を与えている自分を、たまに来る私が責められるのか、と。
私は反論できなかった。写真を求め、きれいな部屋を褒め、祖母の声より背景を見て安心したのは私だ。
祖母は保護され、白いベッドも業者が回収した。露美は、親戚に誤解された被害者だと家族チャットへ書いた。
最後に撮った写真でも、シーツの中央には、誰も横たわったことのない折り目が一本通っていた。