撮る側の顔
同窓会が始まると、大須賀雄介は黒羽根景都へスマートフォンを渡した。
「景都、集合写真頼む。昔から撮る係だったろ」
景都は黒いシャツに細身のスーツを重ねていた。伸ばしていた前髪を短くし、鋭い目と整った輪郭が現れている。大須賀は一瞬ためらったが、すぐ昔の呼び方へ戻った。
「写真には入らなくていいよな。お前、目立つの苦手だし」
中学の行事では、景都がカメラを持たされ、完成した写真にはいつも彼だけがいなかった。大須賀はそれを“空気に向いてる”と笑った。
景都はスマートフォンを受け取らず、自分の小さなカメラを机へ置いた。
「今日は撮る仕事じゃない」
会場は写真美術館の特別展示室だった。壁には布が掛けられ、幹事の大須賀は、何の展示か知らないまま安く借りられたと自慢していた。
開会時刻になると、海外ファッション誌の編集長と有名俳優が入場した。布が一斉に外される。
現れたのは、世界各地で撮影された二十枚の大型写真だった。すべての下に〈Keito Kurobane〉の署名がある。
景都は広告、映画、報道の分野で国際賞を受ける写真家になっていた。年間契約は億単位。撮影予約は二年先まで埋まり、個展の作品も開幕前に完売していた。本人も香水ブランドの広告へ起用されるほど容姿が知られ、今夜は初の回顧展の内覧会を、同窓会へ提供していたのだ。
大須賀は自分のスマートフォンを引っ込めた。
「まあ、カメラが良ければ誰でも撮れるだろ」
有名俳優が首を振る。
「黒羽根さんでなければ、僕はレンズの前に立ちません」
編集長は景都へ、次号の表紙撮影と世界巡回展の契約書を渡した。
集合写真の時間。景都は三脚を立て、十秒のタイマーを設定した。そして初めて、撮影者ではなく同級生として中央へ歩く。
大須賀がいつもの癖で景都の前へ出ようとすると、美術館員が展示作品を守るため端へ下がるよう案内した。
シャッターが切れた瞬間、景都は写真の中央に写り、大須賀だけが照明柱の陰へ半分隠れた。