敵将の顔で帰る
外門が破られる一刻前、ダルヴィンは死んだ敵兵の顔へ刃を入れた。
薄く剥いだ皮を自分の顔へ貼る。血が縁を縫い、鏡の中に敵の斥候が目を開けた。
この仮面は百呼吸だけ持ち主を完全に偽る。その代わり、外すたび、仮面の顔の一部が自分へ永久に残る。
ダルヴィンは敵陣へ入った。
一枚目で見張りを抜け、火薬庫の位置を確かめる。百呼吸目に仮面を剥ぐと、右目が斥候と同じ灰色へ変わった。
二枚目は工兵の顔。破城槌の下へ潜り、支柱へ油を塗る。外したとき、鼻が太く曲がり、声が低くなった。
だが火を点けるには、敵将の封印環が要る。
ダルヴィンは司令幕へ忍び込み、眠っていた敵将を絞め殺した。三枚目の皮は温かく、貼ると自分の輪郭を強く引っ張った。
敵将の顔で槌のそばへ戻る。兵たちは敬礼し、道を開ける。封印環を火口へ押し当てると、油に青い炎が走った。
槌が内側から爆ぜ、周囲の攻城具へ火を移す。敵陣は混乱し、城塞への突撃が止まった。
百呼吸が尽きる。
ダルヴィンは仮面を剥いだ。
敵将の眉、頬、顎、歯、髭が自分の顔へ残った。鏡代わりの剣には、殺した男そのものが映っている。
彼は味方の門へ走った。
「開けろ。任務は終わった」
声まで敵将だった。
城壁から矢が降る。一本が肩へ刺さり、ダルヴィンは兜を脱いだ。
「私だ。合言葉は、冬梨を二つ」
幼い娘ミレタと決めた言葉だった。
小窓の向こうに、その娘が現れた。守兵に水を運んでいたらしい。ダルヴィンは笑おうとした。
ミレタの顔が恐怖で固まる。
「お父さんを殺した人」
「違う。私が」
敵将の唇が娘の名を呼ぶ。ミレタは叫んで窓から退いた。
後方で敵兵が追ってくる。前では味方が弩を構える。
ダルヴィンは燃える槌を振り返り、任務が成功したことを確かめた。
城塞は救われる。
彼は両手を上げた。朝の光の中で、その影まで敵将の輪郭へ変わっていた。
門は最後まで開かなかった。勝利の報告書には、敵将が自軍の兵器を焼いて戦死した、とだけ記された。ダルヴィンという斥候の名は、行方不明者の欄へ残った。