星祭りの火薬箱

星祭りの夜、最初の花火が上がる直前に、ラウル侯爵令息はナディアを広場の壇へ呼び出した。

「祝祭火薬費の半分を横領した。発注は百樽、届いたのは五十樽。管理責任者のお前が差額を奪った。婚約を破棄する」

民衆の前に、未使用の星形花火玉が一つ置かれた。百樽分を買った証としては、あまりに軽そうだった。

ナディアは事故を防ぐため観覧席を広げ、花火の数を減らす案を出していた。それを「祭りを暗くする嫉妬深い令嬢」と罵ったのがラウルだ。安全を優先した彼女の評判は、火薬を減らして金を盗んだという告発に、都合よく燃料を与えた。

ナディアはそれを両手で持ち上げた。花火師として覚えた重みの半分しかない。けれど感覚だけを口にすれば、女の思い込みと切り捨てられる。だから彼女は、火薬自身に語らせることにした。

「この花火玉が、正規の納品物だとおっしゃいますか」

「王家の祭印がある」

「では、割ってください」

火術公プロメオが進み出て、刃ではなく指先の火で外皮を開いた。祭りの中心玉には、全納品量に応じた火薬が圧縮され、内部に納入主の印が一度だけ焼き付く。これ一つが契約全体の証明になる。

中から現れた火薬層は半分しかない。

中心には、ラウル家の鷹印が黒く焼き付いていた。

五十樽しか仕入れず百樽分を請求したのは、ラウル本人だった。

「祭りを豪華に見せるための帳簿操作だ」と彼は叫んだ。「花火は上がる。誰も損をしない」

「半分の火薬で、空だけでなく私の罪まで飾るおつもりでしたか」

ナディアは婚約の星飾りを外した。

ラウルは空を見上げ、焦った声を出す。

「婚約破棄は撤回する。お前が残れば、予定どおり点火できる」

「私の人生は、あなたの失敗を隠す煙幕ではありません」

彼女は星飾りを空の花火玉へ置き、ラウルに背を向けた。

プロメオは点火台の前で、火傷の跡がある手を差し出していた。残る五十樽で安全な演目を組み直すか、彼女自身に選ばせるために。

ナディアは最初の導火線をまたぎ、その手を取った。