時喰い獣の砂時計で判決を戻す
処刑台の刃が落ちた瞬間、ジゼルは広場へ飛び込んだ。
「待って!」
声は間に合わない。父は王の印章を盗んだ罪で、たった今処刑された。判決から執行まで、異例の一日。面会も再審も拒まれ、財務官は『証拠が消える前に』と急がせた。
だが彼女の手には、時喰い獣を倒して得た《一分返しの砂時計》がある。
《結末指定ドロップ》。ボス討伐時に「取り戻したい結果」を一つ定めれば、それを覆す限定品が確定する。ジゼルは最初から、父の処刑だけを指定していた。
時喰い獣との戦いで、ジゼルは自分の時間を餌にした。髪の一房が白くなり、十年分の誕生日の記憶を奪われかけても、砂時計だけは離さなかった。
彼女は砂時計を逆さにし、処刑台へ投げる。
砂が下から上へ昇った。
落ちた刃が音もなく持ち上がり、切れた縄が結び直され、広場の鐘が一回分だけ逆に鳴る。父の体は傷つく直前へ戻り、首には冷たい刃の感触だけが残った。
世界全体ではない。処刑台の一分だけが巻き戻ったため、ジゼルの手にある証拠は消えない。
「この判決は偽造です!」
彼女は時喰い獣の腹から回収した王印を掲げた。獣の巣へ捨てられていたのだ。印面には、財務官の血と魔力紋が残っている。
処刑を急がせた財務官が叫ぶ。
「盗人の娘が持っていることこそ証拠だ!」
「では、なぜ印章の内側にあなたの秘密口座番号が刻まれているのです」
ジゼルが泥を拭うと、横領金の送付先が現れた。父は偽造帳簿を見つけたため、犯人に仕立てられていた。
王直属の監察官が印を確認し、処刑人へ手を上げる。
二度目の刃は落ちなかった。
父の縄が解かれ、代わりに財務官の両手へ拘束具がはまる。処刑人は刃を固定し直し、父へ深く頭を下げた。群衆からは歓声ではなく、安堵の息が波のように広がった。
父はまだ震える手でジゼルの頬に触れた。
「遅かったと思った」
「一分だけ。でも、間に合ったよ」
砂時計の最後の粒が上へ収まる。ガラスが消える直前、金色の通知が空中へ残った。
【時喰い獣限定SSR《一分返しの砂時計》――確定した死刑判決の完全撤回、世界初】