曜日貸しの四〇二号室

曜日貸しアパートでは、家賃の代わりに週一日を大家へ渡す。契約者ごとに消える曜日が違い、同じ部屋でも貸した日には別の住人が使う。私物は黄色い線の内側へ置き、台所に食べ物を残してはいけない。

櫟原禄人は火曜日を貸していた。

四〇二号室で月曜の夜に眠ると、次は水曜の朝だ。だが流しには毎週、洗ったマグカップが伏せてあった。火曜の住人が規則を破っている。

大家に言うと、「同じ部屋を丁寧に使う人でよかったですね」と笑われた。

禄人はメモを残した。食器は禁止です。水曜、返事があった。

「これは食器ではなく、会話です」

火曜の住人は塔子と名乗った。彼女は木曜日を大家へ渡しているため、禄人とは普通なら会えるはずだった。しかし勤務先が夜勤で、禄人の帰宅前に出て、彼が出勤したあと戻る。二人は同じ部屋を使いながら、マグカップとメモだけで話した。

好きな音楽、嫌いな上司、冷蔵庫に残せない食べ物。禄人は黄色い線の内側に花を置き、塔子は火曜に写真を撮って戻した。写真では花だけが一日分枯れていた。二人は一度だけ、日曜の正午に会う約束をした。だが禄人が公園へ着くとベンチには温かい紅茶だけがあり、塔子のメモには「私の日曜は、あなたの火曜だった」と書かれていた。

半年後、建物の取り壊しが決まった。更新しない者は、貸した曜日に荷物を撤去される。禄人は塔子へ、一緒に別の部屋を借りないかと書いた。

水曜、返事はなかった。マグカップもない。

次の週も、その次も空だった。大家によれば、火曜の契約者は最初からいないという。四〇二号室は禄人一人の契約だと台帳を見せられた。

退去日、禄人は最後まで黄色い線の内側を調べた。床板の隙間に、小さな鍵が落ちていた。自分の部屋の鍵と同じ番号だが、持ち手に木曜日と刻まれている。

禄人は新居を一人名義で借りた。消える曜日は火曜のまま。初めての月曜、二本の鍵をテーブルへ置いて眠った。

水曜の朝、鍵は一本になっていた。

持ち手は二つあり、金属が途中で溶け合っている。一方に火曜日、もう一方に木曜日。接合部には赤茶色の錆が輪になり、その輪の内側だけ、塔子が使っていた紅茶の匂いがした。