最終面接の見学者席
商品企画職の最終面接に、「Observer」という外部参加者がいた。
採用部長は、面接官研修の見学者だと説明した。カメラは切られ、所属も明かされない。
私は課題として、新しい宅配サービスを提案した。
最後に、わざと不自然な言葉を一つ入れた。
「受取人の生活時間を、青い余白として設計します」
社内で使われていない、私だけの造語だった。
発表直後、Observerのタイルにファイル共有の印が点いた。
採用部長は私の案を「独自性に欠ける」と評し、別候補を推した。
「似た構想は他社にもある。今回は見送りでしょう」
私は、似た構想がどこにあるのか尋ねた。
部長は答えず、面接を終えようとした。
人事役員に頼み、参加者の所属を確認してもらった。
Observerは競合宅配会社の企画責任者。しかも採用部長の配偶者だった。
部長は、家庭の回線が誤って接続したと言った。
私は会議招待の転送履歴を示した。部長が面接開始前にObserverへリンクを送り、《使えそうな案だけ拾って》と書いている。
さらに共有ファイルのアクセス履歴では、私の発表資料が十三時二十二分にObserverへダウンロードされていた。
その場で競合会社の公開前資料が、誤ってObserverの共有画面に映った。
表紙の下に《青い余白プロジェクト》とある。作成時刻は十三時二十八分。私が造語を口にしてから六分後だった。
部長は以前から存在した企画だと言い張ったが、版履歴の初版は今この面接中だ。
さらにObserverの会議チャットには、《前半は弱い。最後の造語だけ使う》という部長からの個別メッセージが残っていた。送信時刻は私の発表終了前で、評価が終わる前から盗む部分を選別していたことになる。別候補を推した理由も、私を不採用にして抗議しにくくするためだった。
人事役員は外部参加者を退室させ、面接の録画を保全した。
「候補者の案が独自性に欠けるという評価は撤回します」
部長が抗議する。
「見送りも撤回ですか」
「候補者の見送りは撤回します」
採用欄に私の応募番号が入る。
「代わりに、あなたを採用業務から見送ります」