月影を包む白布
月蝕領から逃れてきた人々は、夜になると影から冷気を漏らした。
呪いではなく、生まれつきの魔力だ。月蝕領では冷気を貯氷に使っていたが、陽麦村には扱う設備がない。それでも畑の苗が一晩で凍ると、陽麦村の住民は避難民を追い出そうとした。
魔術管理官リラは、彼らを地下へ閉じ込めなかった。
月光を遮る白布を張れば、冷気は布の内側だけで収まると確かめ、広場に設計図を出した。
リラはまず空の畑で一晩だけ試験し、白布の内外に同じ苗を置いた。結果と温度を公開してから本設計へ進んだ。
一人につき寝床二畳と通路一畳。家族は同じ区画。布代は村の魔石取引五十枚につき一枚を徴収し、避難民の魔石売買にも同率。集めた額、買った布の長さ、割り当て区画を毎晩掲示する。商人の寄付で広い区画を買うことも、冷気の弱い者を狭くすることも認めない。昼間の移動は自由、夜も白布区画を使うかどうかは本人が選ぶ。使わない者を罰する規則は設けなかった。
「なぜ商人が払う」
魔石商が不満を漏らした。
「彼らの冷気を封じる布は、あなたの魔石灯で織るからです。利益と負担を同じ表に置きます」
月蝕領の織り手は、白布の縫い方を見て首を傾げた。
「直線では風に裂ける。星形に張れば、半分の柱で済む」
彼らは公開された賃金を受け取り、陽麦村の仕立屋と一緒に布を縫った。農夫たちは苗を守りたい一心で柱を立てる。誰も避難民の居住資格と作業を交換しなかった。それでも日没までに、白い屋根が広場いっぱいに咲いた。
最初の夜、満月が昇った。
白布の内側には薄い霜が降り、外の麦苗には露だけが残った。
追放を求めていた農夫が、自分の手で布の端を締め直す。
「風が強い。眠る前にもう一本、縄を足そう」
翌朝、村の子どもたちは霜を小皿へ集め、麦の露と並べた。
入口の看板には二つの絵が描かれた。白い月と金色の穂。
『月影区――夜は冷えます。毛布は共同棚にあります』
その看板の下で、月蝕領の影と陽麦村の影が、朝日を受けて同じ方向へ伸びた。