月曜からでなくていい
白瀬珠季は、喫茶「七曜」の壁時計が閉店十分前を指すまで、来月の予定表を埋め続けていた。
平日は仕事、土曜は資格講座、日曜は頼まれた手伝い。空いた夜にはオンラインの打ち合わせが入る。断れないのではなく、空白があると怠けているように見えるのが怖かった。誰に見せる予定表でもないのに、白い欄を見つけるたび予定を足した。
店は今週で閉まる。古本棚の下に残った商品は、日付の印刷されていない手帳が一冊だけだった。焦げ茶の表紙を開くと、各ページには曜日の欄だけがあり、年月日は自分で書く形式になっている。
「いつのものですか」
珠季が尋ねると、店主は奥付を確かめ、首を傾げた。製造年の記載もない。だから古いのか新しいのか、見分けがつかなかった。
会計を頼むと、店主は値札を剥がし、最初のページを開いた。今日の日付を書き込むのかと思ったが、何も記さない。未使用のまま薄紙へ載せ、表紙を閉じる。レシートにだけ今夜の日付が刻まれた。
珠季は包みを受け取る前に、もう一度手帳を開かせてもらった。
最初のページは月曜から始まっている。けれど、今日の曜日から使ってはいけない理由はない。珠季は三段目に明日の日付を書いた。
予定ではなく、「休む」と記す。
スマートフォンへ戻り、明日引き受けていた臨時の作業を断る文を送った。
「今週は対応できません。次回から事前に相談してください」
代わりの日を提案しそうになり、指を止めた。休む日を別の仕事へ振り替えたら、空白はまた消える。
店主は閉店札を返しながら、珠季が書き終えるのを待った。手帳の最初と最後を揃えるように軽く机へ当て、紙の端を整えてから渡す。
明日は月初でも月曜でもない。何かを始めるのにきれいな区切りではなかった。
それでも珠季は、日付のない手帳の途中から、自分の休みを始めることにした。
帰りの電車で予定表を開いても、空白を埋めない。その一日だけは、「休む」の二文字が、何もしない時間をきちんと予約していた。