未来の鍵
古い鍵屋で売られていた銀の鍵は、行きたい場所の扉なら何でも開けた。
ただし一度使うと、直前に通ってきた扉が二度と開かなくなる。
若い職人は、締切後の展示会場へ入るために使った。
作品を滑り込ませ、賞を取った。
その代わり、会場へ来る前に出た自宅の物置が開かなくなった。
次は、有名な工房の面接室。
受付時間を過ぎていたが、鍵で入り、採用された。
代わりに学生時代の部室の扉が永久に閉じた。
鍵は機会を逃さなかった。
海外の工房。
特別な展示室。
重要な会議。
扉を開くたび、後ろの一枚が閉ざされた。
最初は困らなかった。
古い場所へ戻る必要などないと思った。
母が倒れたと連絡を受けた夜、職人は空港の保安扉を鍵で開け、最終便へ間に合った。
病院へ着き、母と話せた。
翌朝、実家へ着くと玄関が開かなかった。
空港の扉へ入る直前、最後に通ったのが実家から持ってきた古い記憶の中のように感じられたが、実際には何年も前に閉めた玄関だった。
鍵は、持ち主が心の中で「戻る場所」と思った扉まで閉ざすらしい。
母は退院したが、職人は実家へ入れない。
窓越しに話し、庭で食事をした。
母は笑って言った。
「出世すると敷居が高いね」
職人は笑えなかった。
家の中には、父の道具箱、幼い頃の机、母が保管した最初の作品がある。
取り戻すため、銀の鍵を玄関へ差そうとした。
開けば、今度は病院の扉か、現在の工房か、別の何かが閉じる。
母が鍵を抜いた。
「開けたいなら、鍵屋を呼びなさい」
普通の業者へ依頼し、古い錠を外した。
時間も金もかかった。
それでも誰かの扉を閉じずに済んだ。
職人は銀の鍵を使うのをやめた。
面接には時間どおり行き、閉まった扉には頭を下げて次の機会を頼んだ。
断られることも多かった。
数年後、自分の工房を開いた。
入口の扉には、銀の鍵ではなく、合鍵を何本も作った。
弟子、母、友人。
戻ってきたい人が、自分で開けられるように。
銀の鍵は額へ入れた。
下に、閉じた部室の写真を置いている。
未来へ進むたび、過去のすべてを施錠する必要はない。
本当に通りたい扉ほど、こじ開けるより、相手に開けてもらう時間を惜しまない方がよかった。