机の矢印

朝、私たち三人の机に落書きがあった。

私の名前から好きな人へ矢印。

親友の名前からも、同じ人へ矢印。

そして好きな人から親友へ、太い矢印。

教室へ入った生徒たちが騒いだ。

「相関図じゃん」

誰が描いたのか分からない。たぶん冗談だった。

けれど、矢印はほとんど正しかった。

私と親友は同じ人を好きだった。

好きな人が親友を見ていることも、私は知っていた。

親友だけが、自分へ向いた矢印を知らなかった。

「消そう」

親友が黒板消しを持ってきた。

私は自分の机の矢印を先にこすった。油性ペンで、簡単には消えない。

好きな人も手伝った。

「誰だよ、こんなの」

笑いながら、親友へ向いた太い矢印だけ丁寧に消す。

親友はその手元を見ていた。

「これ、本当?」

急に聞いた。

教室の空気が変わった。

好きな人の手が止まる。

私は逃げたくなった。

「何が?」

誰かが茶化そうとしたが、親友は好きな人だけを見た。

「この矢印」

好きな人は、しばらく黙ってからうなずいた。

教室が沸いた。

私は笑う側へ回った。肩をたたき、冷やかす声に混ざった。

涙が出そうだったが、みんなが騒いでいる間は顔を隠せた。

親友は嬉しそうだった。でも、すぐ私の机を見た。

消えかけた矢印。

私から好きな人へ。

「これは?」

静かに聞かれた。

私は黒板消しを強く動かした。

「冗談でしょ」

「誰の?」

「描いた人の」

好きな人は何も言わなかった。

その沈黙がつらかった。

昼休み、親友が屋上へ呼び出した。

「本当なんでしょ」

私は否定しなかった。

親友は泣いた。

「どうして言わなかったの」

「言ったら、あなたが喜べないと思った」

「今も喜べないよ」

二人でフェンスにもたれた。

教室では、好きな人が返事を待っているはずだった。

「私、断ったほうがいい?」

親友が聞いた。

「それは違う」

「じゃあ、笑っていい?」

すぐには答えられなかった。

最後にうなずいた。

「今日じゃなくていいけど」

親友は私の手を握った。

放課後、二人は付き合うことになった。

翌朝、机の落書きはほとんど消えていた。

私の机だけ、矢印の跡が薄く残った。

消したはずの気持ちも同じだった。

私はその跡をノートで隠した。

隠してもなくならない。でも、授業を受ける場所は必要だった。