村長だけがルールを知らない
過疎対策の交流会で、若者十人が村役場の会議室に集まり、人狼ゲームを始めた。
開始直前、本物の村長が入ってくる。
「何をしているんだ?」
主催者は空いた席を勧めた。
「村長もぜひ」
「村長という役なら、もうやっているが」
参加者たちはざわついた。
カードを配られた村長は、表裏を何度も眺める。
「これは何の予算資料だ」
若者が囁く。
「役職を知らないふり」
「経験者ほど初心者を装う」
「本物の村長がゲームでも村長役とは限らない」
「二重村長は怪しい」
第一昼、村長が尋ねた。
「人狼を見つけたら、役場へ届けるのか」
「追放します」
「住所は?」
「ゲーム盤の外です」
「住民票はどうなる」
「設定に行政を持ち込まないでください」
参加者たちは、村長の発言を高度な誘導と解釈した。
「“住民票”で村人陣営を強調した」
「人狼なら村民登録されていない」
「自分だけ追放手続きを知っている」
「権力型の狼だ」
占い師が村長を白判定した。
村長はうなずく。
「健康診断は毎年問題ない」
「白の意味も知らない演技」
「ここまで徹底する?」
「政治家は演説に慣れている」
投票で村長は追放された。
役職カードは〈村人〉。
村長は立ち上がった。
「では私は仕事へ戻る」
「追放を受け入れるのが早い」
「外から狼へ指示する気?」
「会議があるんだ」
主催者が慌てて止める。
「村長、本当にルールをご存じなかったんですか」
「会議室の鍵を届けに来ただけだ。座れと言われたから座った」
参加者たちは顔を見合わせた。
「では、なぜ役職カードを隠したんです」
「住民の個人情報かと思った」
「なぜ議論へ参加を?」
「若者の意見を聞くのが村長の仕事だ」
村長は出口で振り返った。
「ところで、人狼は見つかったのか」
全員が答えた。
「村長を追放したところです」
翌月、村長は正式にルールを覚えて再参加した。
今度は人狼カードを引いたが、誰も疑わなかった。
「また何も知らないふりだ」
「前回と同じ村人だろう」
村長は静かに全員を食べた。
その村で最初に追放された村人は、選挙では無敗だった。