欠席者の集合写真
八槻が転校したのは、卒業アルバムの集合写真を撮る一週間前だった。
撮影の日、新しい学校の教室で数学を受けていると、前のクラスから写真が送られてきた。
三列に並ぶ三十四人。八槻の席だった場所には、誰も立っていない。
空白ではない。後ろの黒板が見えるだけだ。
写真の下にメッセージが添えられていた。
『遅刻すんなよ』
八槻は笑いそうになり、授業中なのでスマートフォンを伏せた。
放課後、前の学校の友達から電話が来た。
「今から来れる?」
「三時間かかる」
「写真屋、待たせてる」
「待つなよ」
「じゃあ合成」
「幽霊みたいになる」
「顔写真送って」
「嫌だ」
通話の向こうで、クラスの声が重なる。
『八槻の椅子だけ置こう』
『等身大パネル』
『黒板に描く』
『欠席者の丸い写真でいいだろ』
八槻は新しい教室を見回した。
窓際では、まだ名前を覚えていない生徒たちが話している。黒板には翌日の係が書かれ、自分の名前はどこにもない。
「撮り直さなくていい」
そう言うと、通話の向こうが静かになった。
「空けといて」
「何を」
「一人分」
電話を切ったあと、八槻は少し後悔した。
写真にいないことが、転校した証拠になる。けれど何年かしてアルバムを開いたとき、自分だけ忘れられたように見えるかもしれない。
数日後、完成前の写真データが届いた。
三列の端に、不自然な隙間が一つある。誰も詰めず、肩一つ分だけ空けて立っていた。
その隙間の後ろの黒板に、小さく文字がある。
『八槻、ここ』
誰が書いたのかはわからない。
八槻はその写真を、新しい学校のプリンターで印刷した。
翌日、担任が席替えをした。
八槻の机は窓際の列へ入り、前後の間隔が狭くなる。隣の生徒が「近いね」と笑った。
八槻は机の横へ写真を貼った。
隣の生徒が覗き込む。
「八槻、どこ?」
「そこ」
「誰もいない」
「いる場所だけ写ってる」
説明すると、相手はしばらく写真を見た。
「じゃあ、今度うちで撮るときは、ちゃんと入って」
「転校したばかりなのに?」
「だから」
その春、新しいクラスでも集合写真を撮った。
八槻は端ではなく、真ん中に立った。
シャッターが切られる瞬間、前の写真の空白を思い出した。
いない場所を残してくれた人たちと、いる場所を空けてくれた人たち。
二枚の写真の間に、八槻の転校が写っていた。