止まりかけの機巧兵と琥珀糖

菓子店〈歯車蜜〉へ、機巧兵ゼノンは一歩ずつ音をずらして入ってきた。

かち、止まり、かち。

胸の心核が寿命を迎え、鼓動が三回に一度しか動かない。修理工房では「旧式に新しい核を使う価値はない」と断られた。明朝には完全停止する。それでもゼノンは廃棄場へ行かず、甘い匂いを頼りに店へ来た。

肩には、もう存在しない部隊の番号が残っていた。戦争が終わってからは橋を直し、荷車を押し、誰にも命令されない仕事を覚えたばかりだ。ようやく兵器以外の生き方を選べると思った日に、心核の停止通知が届いた。旧式という一語で、その先まで捨てられたくなかった。胸の奥では、停止までの残り時間が赤く点滅していた。

「食事は不要な身体だ。だが、動力になる菓子があると聞いた」

店主モーリスは、金色の琥珀糖を一粒持ち上げた。中に細かな歯車模様が閉じ込められている。

「心拍琥珀糖です。噛まずに胸の炉へ入れてください」

ゼノンが胸板を開くと、弱い青光が明滅していた。糖を入れた瞬間、透明な角が溶け、金色の蜜となって歯車へ流れる。

かち。

次の鼓動までの沈黙が来ない。

かち、かち、かち。

規則正しい音が店内に満ちた。錆びて上がらなかった右腕が持ち上がり、五本の指が滑らかに開く。ゼノンはその手を何度も握り、胸へ当てた。

「これは、修理なのか」

「菓子です。甘さが切れれば終わります」

「どれくらい動ける」

「一粒で一年ほど」

旧式に価値はないと言われた兵士は、しばらく何も言えなかった。やがて背筋を伸ばし、軍礼ではなく一人の客として頭を下げた。

「一年あれば、自分の次の仕事を自分で探せる」

彼は廃棄手当として渡された銀貨をすべて卓上へ置いた。

「十粒ほしい。九粒は、同じ廃棄場へ送られた旧式たちに渡す」

扉へ向かう足音は、もう一度も途切れなかった。

ゼノンが出ていったあとも、かち、かち、という力強い鼓動が路地の先まで響く。

モーリスが売り切れ札を裏返そうとしたとき、ちりん、と新しいドアベルが鳴った。