死刑命令を保管中

王宮文書庫の写字奴隷マルディは、命令書だけを収納できた。

文字を読める奴隷を恐れた宰相は、彼の舌を切る代わりに首輪をつけ、偽の判決を複写させていた。

【固有スキル《命令保管》:公的権限で発行された命令文書を、その効力を含めて一枠へ格納する】

収納中は紙を閲覧できず、取り出せば効力も戻る。宰相は「ただの鍵付き書棚」と判断し、マルディを安心して酷使した。だがマルディは複写するたび、印章の傷、署名の癖、命令系統を一字ずつ記憶していた。

王が病に伏すと、宰相は反対派十二人へ死刑判決を出した。

罪状は反逆。証拠はすべて偽造で、処刑後に宰相が摂政となる手筈だった。マルディは最後の写しを作らされ、自分の名も十三人目に加えられた。

公開処刑の朝。

広場には十三の首台が並ぶ。執行官が王印付きの原本を読み上げ、群衆へ正当性を示した。宰相は高座から笑う。

「文書庫の鼠よ。お前が写した命令で死ねるのだ。光栄に思え」

マルディは声を失っている。

弁明も告発もできない。だが命令とは、読まれた紙だけではない。原本、写し、王印、執行官の復唱を通じて一つの効力を発する、公的な文書群だ。

彼の両手は鎖で首台へ固定されていた。

それでも足元には、自分が複写した十三通目が落ちている。爪先で紙へ触れ、同じ王印から派生した死刑命令すべてを一件として指定した。

能力を使うのは一度。

執行官が斧を振り下ろしかけ、腕を止めた。

命令の効力が世界から消え、誰を、なぜ、何の権限で処刑するのか認識できない。十三人の拘束魔法も解ける。一方、収納対象にならなかった文書が高座から舞い落ちた。宰相個人の印で出された、王への毒薬購入命令だった。

近衛隊長がそれを拾う。

病床の王が遠見水晶越しに逮捕を命じ、今度は正真正銘の王命が広場へ響いた。宰相の拘束輪が閉じる中、マルディの奴隷首輪が砕け、無音のまま職業欄が開く。

【職業が《文書庫写字奴隷》から《法命封緘者》へ書き換わりました】