氷爪猫の足音を溶かす

北境の宿場を、氷爪猫が三日間包囲した。

雪より白い猫型魔獣が門前を歩くたび道が凍り、旅人も兵士も外へ出られない。領主は火矢で追い払うよう命じた。

薪売りのダリオは、夜明け前に窓から足跡を数えた。

同じ円を何度も回っている。門を狙っているのではなく、止まれないのだ。よく見ると四本の足の指に氷塊が挟まり、一歩ごとに爪を押し広げている。

「歩くほど痛いから、歩き続けてるのか」

ダリオは売り物の薪を一本残らず門前へ積んだ。

兵士たちが「炎で怒らせるな」と止める。彼は火を大きくせず、炭火を土鍋へ移し、雪を溶かしてぬるま湯を作った。

氷爪猫が近づくと、吐息だけで湯の表面が凍る。ダリオは鍋を交換しながら、門の外へ座った。

「足湯なんて知らないだろうけど、悪くないぞ」

猫は耳を伏せ、前足を振り上げた。ダリオの頬を爪先がかすめ、髪が白く凍る。それでも彼は逃げず、自分の凍傷だらけの手を湯へ入れてみせた。

しばらくして、巨大な前足が鍋へ沈んだ。

氷が軋み、一本ずつ剥がれる。指の間には凍った棘草まで刺さっていた。ダリオは毛抜きで抜き、溶けた水を拭き、油を塗る。

四本目を終えるころには、売り物の薪は灰になっていた。宿屋の娘が黙って毛布を差し出し、鍛冶屋は次の炭を持ってくる。最初に弓を向けた兵士まで、濡れた足を拭く布を温め始めた。

ダリオが最後の指の間を揉むと、氷爪猫は初めてその場に座った。動かなくても痛くないと確かめるように、足を雪へ置き直す。

額の氷花が灯り、ダリオの手袋へ印が移った。途端に宿場を覆っていた氷だけが溶け、閉ざされていた街道が春の道のように開く。

領主が褒賞を持って駆けつけたが、ダリオは新しい薪代だけを受け取った。

氷爪猫が彼の膝へ四本の足を順番に載せ、最後に頭を置いたから、それ以上は持てなかったのだ。表面の毛は新雪ほど冷たく、奥へ指を沈めれば炭火のような熱がある。ずしりとした重さに脚を痺れさせながら、ダリオはその温度差を何度も撫でた。