決闘時計は正午を撃てない

砂時計町では、正午の鐘が鳴ると決闘を断れない。

流れ者ノチェは、町を支配する銃士アバルクに広場へ呼び出された。理由は、宿屋の娘から不当に取り立てた借金帳を燃やしたからだ。

「抜け。背中から撃ったと言われたくない」

ノチェは外套のポケットへ両手を入れたまま答えた。

「銃は持っていない」

一発目が鳴る。アバルクの弾は瞳を狙い、ノチェの頬の横を抜けて役場の借金看板を撃ち落とした。

広場の誰も、ノチェが動くところを見ていない。帽子の影さえ同じ位置だった。

「照り返しで照準が狂った」

銃士は言い訳し、腰から七連魔導銃《正午鐘》を抜いた。一度引き金を引けば、七方向から追尾弾が戻ってくる。町一番の早撃ちでも避けられない処刑用の銃だ。

「立ったまま蜂の巣になれ!」

七発の轟音が重なり、火薬煙と砂埃がノチェを包んだ。

煙が晴れる。

彼は両手をポケットへ入れた同じ姿勢で立っていた。帽子も落ちず、足元には七発の弾が輪を描いて埋まっている。追尾弾は彼の目前で互いを追い始め、最後には地面へ逃げ込んだのだ。

七つの弾痕は偶然にも、役場前へ貼られた借金証文の署名欄だけを射抜いていた。宿屋の娘、鍛冶屋、井戸番。町を縛っていた偽造契約が風にちぎれて舞う。見物人たちはノチェではなく、証文を回収しようと這うアバルクを見下ろした。正午の鐘はまだ、決闘開始の余韻を鳴らしている。保安官は拾った証文を調べ、偽造印をその場で確認した。勝敗を宣言する前に、銃士アバルクの逮捕状へ署名する。町の支配は一発も当たらないうちに終わっていた。

アバルクが異常に気づいたのは、《正午鐘》の照準環が、ノチェへ向けるたび空の空き瓶を標的に選び直したときだった。

「貴様、いつ避けた」

「避けていない。撃たれるのに飽きただけだ」

ノチェは百年前、この町の初代銃士にも同じ場所で撃たれている。死ななかった彼を前に、弾丸のほうが代々学習した。

アバルクが意地で八発目の魔力を流した瞬間、七本の銃身が花のように開き、《正午鐘》は握りの上で砕けた。