沈黙を量るベンチ
母の納骨を終え、姉妹は公園の古いベンチへ座った。
姉は母の近くで介護をし、妹は遠くから費用を送った。
葬儀の準備中も互いのやり方を責め、もう用事が済めば会わないつもりだった。
ベンチには新しい金属板が付いていた。
「翻訳塗料試験中。二人が一分間黙ると、座面が受け取った動きを一文にします」
二人とも疲れ、説明を笑う気力もなかった。
一分たつ。
ベンチが低い声で言った。
「左、三度近づく。右、三度離れる」
左に座る姉が妹へ寄り、妹が同じだけ離れていたらしい。
二人とも無意識だった。
「そっちが狭くするから」
妹が言う。
「避けるからでしょう」
また黙る。
一分後。
「右、手を伸ばす。途中で戻す」
妹は、姉の黒い袖へ付いた糸くずを取ろうとしただけだと言った。
姉は何も返さない。
三度目の沈黙。
「左、震える。右、同じ速さ」
姉妹は同時に泣いていた。
顔をそむけ、相手に見せないようにしていたので気づかなかった。
妹が言った。
「お母さん、最後に私のこと聞いた?」
姉は長く答えなかった。
「毎日」
「何て」
「来られないのは仕事があるからって、自分に言い聞かせてた」
「姉さんは?」
「あなたが送ったお金で助かったって、言えなかった」
「何で」
「私だけがそばにいたことを、少しは分かってほしかったから」
妹も、電話をかければ介護の話しかできず、役に立たない自分を見せるのが怖かったと話した。
送金を、姉への感謝ではなく義務のように扱った。
言葉は謝罪へきれいにまとまらなかった。
互いに腹が立つ部分も残った。
帰ろうと立ち上がり、姉がよろめいた。
妹が腕をつかむ。
二人でまた座った。
一分間、今度は黙らず、母の失敗談を話した。
味噌を入れ忘れた汁。
姉妹の名前を逆に呼んだ日。
病室で看護師へ偉そうに指示したこと。
ベンチは話さない。
沈黙が一分続いていないからだ。
日が暮れ、二人は同じ電車で帰った。
仲のよい姉妹には戻らない。
それでも月に一度、母の墓へ一緒に行くことにした。
公園のベンチを通ると、ときどき二人で座る。
もう一分黙らないよう、先にどちらかが話し始める。
座面に翻訳される前に、自分たちで近づいた分と離れた分を伝えるためだった。