流星が落ちきる前
高校最後の夏、親友とは一か月口をきいていなかった。
進路のことで喧嘩した。私は町を出る。彼は家業を継ぐ。互いに「逃げるんだ」「残るだけだ」と、相手がいちばん恐れている言葉を選んだ。
流星群の夜、偶然、河原で隣り合った。
昔は二人で寝転び、願い事を競った場所だ。今は三メートル離れて座り、空だけを見ていた。
ひときわ明るい流星が現れた瞬間、川の音も、草の揺れも、彼の呼吸も止まった。
星が空を横切っているあいだ、私だけが動けた。
止まった光は、一本の傷のように夜空へ残っていた。
私は彼のそばへ歩いた。
横顔は怒っているのではなかった。唇が少し開き、何か言おうとしている。握った手には、二枚の古い乗車券があった。
私が受験する町までの券と、帰りの券。
彼の足元には、家業の工房で作った小さな金属の星が置かれていた。裏に「落ちても帰れる」と彫ってある。
見送りに来るつもりだったのだろう。
私も鞄の中に、町の景色を描いたスケッチ帳を入れていた。都会でつらくなったら送ってくれと、渡すつもりだった。
二人とも、仲直りの準備だけして、最初の言葉を相手に押しつけていた。
流星はまだ落ちきらない。
願えば間に合う長さだった。
昔なら、試験合格や大金や、彼とずっと一緒にいられることを願った。
けれど私は何も願わなかった。
星は遠い。町を出ても、残っても、同じ空にある。
そんな当たり前を、止まった夜だけが見せてくれた。
時間が戻る。
彼の口から言葉が続いた。
「駅まで、送る」
謝罪ではなかった。
私も「うん」とだけ答えた。
出発の日、彼は二枚の乗車券を持ってきた。
「帰りはいつ使ってもいい」
私はスケッチ帳を渡した。
「描く場所がなくなったら送って」
「なくならない」
「じゃあ、増えたら」
列車が動き、町が後ろへ流れた。
窓に金属の星を押し当てると、朝の光が小さく跳ねた。
願いはかなわなかった。
そもそも願わなかった。
それでも私たちは、別々の場所へ進みながら、相手の帰り道だけは消さずに残せた。