流星群の星便
町の観測所では、流星群の夜に手紙を望遠鏡の筒へ入れると、同じ星を見上げる別の時代の誰かへ届く。
転校したばかりの子どもは、誰にも見せない手紙を書いた。
「未来の人へ。
この町には友達がいません。
百年後なら、転校はなくなっていますか」
翌朝、望遠鏡の接眼部に銀色の紙が挟まっていた。
「こちらは地球ではありません。
月の裏側の居住区です。
生まれてから一度も海を見ていません。
教室は六人で、逃げても全員に見つかります」
日付は百年以上先。
子どもは返事を書く。
「海は塩辛くて、靴へ砂が入ります。
私は人が多い教室でも、誰にも見つかりません」
未来の子から、月の暮らしが届く。
窓の外は黒い。
水は循環させるので、涙を流すと少し叱られる。
地球の昔話を授業で読むが、雨の匂いが分からない。
現在の子は、海辺の砂を封筒へ入れようとした。
管理人に、手紙以外は望遠鏡を傷つけると止められた。
代わりに、砂を言葉で説明した。
「濡れると重くなり、乾くと指の間から逃げます。
波が来るたび、同じ形がなくなります」
未来からの返事。
「それは、友達に似ていますか」
子どもは考えた。
前の学校の友達とは、最初から仲がよかったわけではない。
消しゴムを拾い、同じ本を読み、喧嘩して、形が変わった。
「似ています。
でも今の私は、波が来る前の砂です」
流星群は三夜だけ。
最後の手紙で、未来の子が尋ねた。
「明日、誰へ最初に話しますか。
私は、地球の海を知っていると先生へ自慢します」
現在の子は困った。
話しかけたい人が思い浮かばない。
翌日、観測所の学校見学があり、同じクラスの生徒が一人、望遠鏡の操作を怖がっていた。
「流星、見たい?」
と尋ねる。
相手はうなずき、
「でも暗い場所が苦手」
と答えた。
二人で入口の明るい場所から空を見た。
流星は一つしか見えなかった。
子どもは月の裏側の友達について話そうとして、やめた。
まず、今隣にいる相手の好きな星を聞いた。
流星群が終わり、星便は届かなくなった。
未来の子が海を見る日は分からない。
現在の子も、すぐ教室へなじめたわけではない。
ただ観測所へ行く約束が一つ増えた。
友達は、未来から送られる完成品ではない。
同じ暗さをどの場所から見るか、少しずつ相談して形を変えるものだった。