港町の真水樽
帆柱港では、船が着くたび町の井戸が空になった。
大商船は銀貨を積み、樽を何十個も満たす。井戸番は金を払う船を優先し、住民は海水で鍋を洗った。
船を追い返せば港が死ぬ。受け入れれば町が渇く。
港務官タマラは、入港鐘の下に二本の線を引いた。
「井戸水の半分は町用、半分は船用。町用の線を下回ったら、船には売りません」
船主たちが怒鳴る。
「契約はどうする」
「代わりに、帆柱一本につき銀貨一枚の給水税を取ります。その金で二本目の井戸を掘ります。入った銀貨も残量も、毎朝ここに書く」
小舟は帆柱一本、大商船は四本。水を多く必要とする船ほど負担が増える。
住民の家庭用は一日一樽まで無料。酒場や染物屋の商売用は、船と同じく樽数を記す。
誰の樽を先にしたかも、井戸番の名とともに掲示する。
最初の三日は、船主たちが別の港へ行くと脅した。
だが隣港までは二日かかる。四日目、大商船の船長が銀貨四枚を机へ置いた。
「二本目ができれば、待ち時間も減る。帳簿を見せろ」
タマラは隠さず差し出した。
井戸掘りには町の者だけでなく、停泊中の水夫も加わった。
土運びを手伝った時間は給水税から差し引く。港の女たちは食事を売り、その代金も工事費と混ぜず別にした。
何もかも線を引き、混ぜない。
だから誰も、善意をただ働きに変えられなかった。
海から遠い倉庫裏で、十一日目に水が出た。
水夫が歓声を上げ、住民が桶を叩く。
タマラは最初の水を大樽へ注ぎ、焼きごてで印を押した。
――町用。
船長は自分の樽を前へ出さず、その樽が井戸脇の台へ置かれるのを待った。
次にもう一つの樽が満たされる。
今度の印は、船用。
同じ水だが、先に守る分が目で分かる。
夕方、港へ新しい船が入った。
船長が料金板を読み、銀貨を数える。その横を、町の少女が町用樽から小瓶一つを満たして通り過ぎた。
誰も止めない。
二本の井戸から流れる水音に、波音が重なった。
港は船を拒まず、町も渇かなかった。