潮骨の首飾り
引き潮の礁湖に、白い珊瑚道が現れていた。
タヴァケ・ロアは、捕らわれていた妹マヒナの首飾りを見た。鮫の歯、赤い貝、白い鯨骨が交互に並ぶ。敵が返す前に、本人へ付けさせたものだという。
こちらが返すのは敵酋長の息子ケオ。交換は礁湖の中央、背丈ほどの珊瑚岩で行う。双方の舟は百櫂離れて待つ。
首飾りの鯨骨は七枚。そのうち三枚目だけ、白い面が内側を向いていた。
マヒナは島一番の水先人だった。首飾りを海図代わりに使う。白面が外なら深い瀬、内なら刃のような浅礁。三枚目を内へ返すのは、「第三水道へ入るな」という印だ。
敵は交換後、いつもの第三水道で味方の舟を待ち伏せるつもりだ。
「飾りを外させろ」とタヴァケは言った。
敵酋長が対岸の岩から叫ぶ。
「人質の持ち物だ。奪う気か」
「紐が切れれば海へ落ちる。検めるだけだ」
タヴァケはマヒナの首へ触れた。妹は目を上げなかった。鯨骨の裏には、爪で小さな波形が刻まれている。偽の並べ替えではない。自分で動かした。
彼は首飾りを元へ戻さず、三枚目だけ内向きのままにした。敵に気づいていないと思わせる。
人質二人は珊瑚道へ降りた。足元を小魚が走り、遠くで波が砕ける。マヒナは縄を付けたまま、ゆっくり歩く。ケオも同じ速さで進む。
中央岩で護衛が縄を切り、二人を入れ替える。
敵酋長の息子が父の側へ着く。マヒナもタヴァケの舟へ乗る。交換は終わった。
敵舟が先に帆を上げた。四艘が礁湖の外へ散り、第三水道の両側へ回る。待ち伏せを隠す気もなくなった。
「首飾りを読んだね」とマヒナが言う。
「三枚目だけ、昔から嘘が下手だ」
「第四は狭い。大舟は通れない」
「大舟では行かない」
タヴァケは戦士を半数ずつ小舟へ移した。敵には大舟二艘しか見えていない。小舟なら第四水道の黒珊瑚の間を抜け、待ち伏せの背後へ出られる。
ケオを返した以上、敵はすぐ攻める。こちらも交換の約束を守った以上、海で遠慮する理由はない。
タヴァケは妹の首から首飾りを外し、舳先へ結んだ。内向きの鯨骨が風を受け、白い裏を一瞬だけ見せる。
第三水道で敵の槍が光った。
タヴァケは第四水道を指した。
「戦帆を上げろ」
赤い帆が小舟の上で開き、珊瑚の迷路へ滑り込んだ。