灰は二度と立ち上がらない
戦場清掃隊の灰回収係ボルティネは、勝鬨の後に働く。
燃えた矢、崩れた攻城具、魔物の灰。戦士たちが次の戦果を語る頃、彼女は風下で黙って箒を動かした。
技能は後始末にしか使えない。
【灰掃除:燃え尽きた後に残る灰を回収し、再び飛散しないよう封じる。】
死霊王との決戦で、勇者軍は敵兵を三度焼いた。
一度目、骸骨軍は灰になった。
二度目、風に舞った灰が集まり、骨へ戻った。
三度目には、灰の粒一つ一つが兵士の形で立ち上がった。聖火で焼くほど数が増え、戦場は黒い吹雪に覆われる。
勇者は膝をついた。
「燃やしても死なないのか」
死霊王が城壁で笑う。
「灰の一粒に一つ、帰還の命令を刻んだ。風がある限り我が軍は蘇る」
ボルティネは後方の荷車から、蓋つきの灰壺を下ろした。戦前、必要数を申請したときは「勝つ前から後始末を考えるな」と半分しか支給されなかった。彼女は自費で残りを用意していた。
将軍が怒鳴る。
「清掃隊は撤退しろ! まだ戦いは終わっていない!」
「いいえ。もう燃え尽きています。ここからは私の仕事です」
彼女は黒い吹雪の中へ箒を差し出した。
一掃きすると、飛んでいた灰が地面へ落ちる。二掃き目で、骨へ戻りかけた粒が列を作る。技能は灰そのものだけでなく、灰を再び兵へ散らそうとする死霊王の命令まで“飛散”として封じた。
黒い渦が箒の先へ集まっていく。
ボルティネは灰を山にし、一壺ずつ詰め、鉄蓋を閉めた。蓋には番号と戦場名を書く。雑に扱えば、また誰かの形になると知っているからだ。
死霊王は新たな風を起こした。
しかし飛ぶ灰がない。
最後の一粒は、彼自身の王冠にこびりついていた。ボルティネが長柄箒でそれを払うと、王冠から帰還命令が消え、城壁の死霊王まで灰になって崩れた。
彼女はその灰も特別扱いせず、最後の壺へ入れた。
「危険物。再開封禁止」
勇者軍に歓声が戻る。だが皆が見ていたのは剣ではなく、整然と並ぶ灰壺だった。
封印番号を記した瞬間、ボルティネの腕章に黒銀の文字が浮かぶ。
【職業「戦場灰回収係」が上位職「終焉収灰官」へ書き換えられました】