父が詰めた隙間
妻が三日間の出張へ行き、柊哉は娘の弁当を作ることになった。
中学二年の毬亜は「買えばいい」と言ったが、冷蔵庫には妻が用意したおかずが並んでいる。温めて詰めるだけ、とメモもあった。
ところが弁当箱へ入れると、妙な隙間ができた。卵焼きと唐揚げの間、ブロッコリーの横。傾ければ全部動きそうだ。
柊哉はミニトマトを二つ入れ、まだ空いた場所へチーズを詰めた。色は増えたが、まとまりがない。最後に海苔を鋏で切り、ご飯へ顔を作ろうとして、片方の眉が太くなった。
「普通でいいのに」
起きてきた毬亜は呆れたが、包みを持っていった。
昼過ぎ、柊哉は自分用の弁当を開いた。娘と同じ中身だが、こちらはさらに乱れている。チーズが唐揚げに貼りつき、海苔の顔は片目を失っていた。
弁当は、ただ入れればよいのではないらしい。妻の箱では、おかず同士が押し合わず、蓋にもつかない。毎朝見ていたのに、気づかなかった。
夕方、毬亜が空箱を流しへ置いた。
「眉毛、友達に笑われた」
「ごめん」
「別に。チーズはおいしかった」
二日目、柊哉は隙間へ枝豆を詰めた。三日目は竹輪を輪切りにした。少しずつ箱の中が動かなくなる。
妻が帰った翌朝、台所へ立つと、弁当はもう完成していた。きれいに並んだおかずの端に、輪切りの竹輪が三つある。
「隙間に便利だったから」と妻が言う。
柊哉は自分の工夫が採用されたことを黙って喜んだ。毬亜が蓋を閉める直前、竹輪の穴から湯気が細く上がった。三日分の朝の匂いが、そこへ小さく詰まっているようだった。
週末、柊哉は自分用に弁当を作った。竹輪、枝豆、チーズを全部入れると、今度は隙間がなくなりすぎた。毬亜が横から一つ抜き、「余白もいるんだよ」と言う。蓋はきれいに閉まり、包みの中へまだ温かな出汁の匂いがこもった。妻は何も言わず、その様子を笑って見ていた。
翌朝から、毬亜は竹輪だけ先に食べるようになった。弁当箱には小さな穴が三つ空き、その周りのおかずが少しずつ寄る。昼まで崩れない完璧さより、食べるたび形が変わるほうが楽しかった。