片方だけのイヤリング

母の遺品には、真珠のイヤリングが一組あった。

姉と一つずつ分ければよかったのに、家の処分をめぐる喧嘩で、私は左だけを持ち帰った。

姉とは三年、連絡を取っていない。

ある朝、左のイヤリングを右耳へ着けた。

耳元から、私たちが喧嘩しなかった世界の会話が聞こえた。

『その箱、そっちが持って』

『重いものばっかり押しつけないで』

『じゃあ写真は私が選ぶ』

『勝手に捨てないでよ』

仲直りした世界でも、姉妹はよく揉めていた。

思わず笑った。

別の日には、二人で母の服をほどき、クッションを作っている音がした。

姉が針で指を刺し、私が大げさに騒ぐ。

また別の日には、姉の入院へ私が駆けつけていた。

『家のこと、頼んでいい?』

『そのための妹でしょ』

現実の私は、姉が入院したことさえ知らなかった。

耳を澄ますほど、向こうの会話は近くなる。

羨ましかった。

だがある夜、向こうの私が怒鳴った。

『いつも私から電話してる! あなたは仲直りしたつもりで、何もしない!』

姉の声が途切れた。

その沈黙は、こちらの三年間と同じ形をしていた。

イヤリングを外すと、部屋が静かになった。

私は電話を手に取り、姉の番号を押した。

最初の一言を何度も考えたが、出た姉は「何」と不機嫌だった。

「右のイヤリング、まだ持ってる?」

「あるけど」

「今度、左右を交換しない?」

「何のために」

「片方ずつだと、使いにくいから」

姉はしばらく黙り、「家も半分ずつ片づけるなら」と言った。

謝罪ではなかったが、私たちには十分な入口だった。

週末、三年ぶりに実家で会った。

姉は少し痩せていた。入院したのかと聞くと、驚いた顔をしたあと「去年ね」と答えた。

私は知らなかったことを謝り、姉は知らせなかったことを謝らなかった。

そこも姉らしかった。

二つのイヤリングを並べると、真珠の色はわずかに違っていた。

長いあいだ別々の箱にいたせいかもしれない。

私たちは一つずつ交換し、今度は正しい耳へ着けた。

もう別世界の声は聞こえない。

代わりに隣の姉が、「似合わない」と直接言った。

私は「そっちも」と返した。

喧嘩しながら続く関係を、ようやくこちらでも始められた。