獣皮の裁判
法廷へ入る前、ロメザは舌の裏へ一滴の獣血を落とした。
狩人ウルフェは、森番を殺した罪で鎖につながれている。現場には四人の証人がいた。全員が彼を見たと言うが、ロメザはその夜、ウルフェと別の谷にいた。
獣血の悪魔は、嘘を匂いで見分ける力を貸す。その代わり、嘘を一つ嗅ぎ当てるたび、語った者の心に似た獣の一部がロメザの身体へ生える。
最初の証人は木こりだった。
「月明かりで、ウルフェの顔をはっきり見た」
甘く腐った嘘の匂い。
「その夜は新月です」
書記が暦を確認し、証言を取り消す。ロメザの背中から黒い羽が一本伸びた。木こりの心に棲む、死肉を待つ烏の羽だ。
二人目の証人は商人。
「被告の短剣が、死体の胸に刺さっていた」
蛇のような冷たい匂い。短剣は押収記録では腰にあった。嘘が暴かれると、ロメザの左腕へ緑の鱗が広がった。
三人目は森番の弟。
「兄は被告に脅されていた」
脂ぎった土の匂い。実際に借金で脅していたのは弟自身だった。帳面が提出され、傍聴席が騒ぐ。
ロメザの口から猪の牙が二本伸びた。唇が裂け、言葉が濁る。
裁判官が顔をしかめる。
「悪魔憑きの姿で、なお証言するか」
最後の証人は領主の猟犬係だった。森番と土地の境界を争っていた男だ。
「私は殺していない」
その一言から、獲物の血より濃い嘘が匂った。
ロメザは吐き気をこらえ、男の長靴を指した。泥の中に、現場にしか咲かない白苔が付いている。衛兵が靴底を調べ、森番の血と折れた指輪を見つけた。
「犯人は、その男です」
嘘を嗅ぎ当てた代価が一気に来た。
ロメザの鼻と顎が前へ伸び、黒い猟犬の吻になる。指は鉤爪へ変わり、片目が黄色く光る。背の烏羽、腕の蛇鱗、猪牙と合わさり、人の輪郭は残らなかった。
猟犬係は自白し、ウルフェの鎖が外された。
「無罪」と裁判官が宣言する。
ロメザは安堵して友へ近づいた。匂いなら分かる。汗、革、焚火。何度も隣で眠った友の匂いだ。
だがウルフェは衛兵の槍を奪い、彼女へ向けた。
「下がれ、魔物!」
ロメザは名を呼ぼうとした。犬の吻と猪牙が邪魔をし、出たのは吠え声だけだった。
判決書にはウルフェの無罪と、正体不明の獣一頭の捕縛命令が並んだ。
彼女が爪で署名しようとすると、墨は《ロメザ》ではなく、四種類の足跡に分かれて紙を汚した。