町じゅうに貼る留守番札
盗賊団が、収穫祭の夜を狙って町へ向かっていた。
見張りが数えた騎馬は五十。町の衛兵は八人。東門は祭りの山車で塞がり、広場には子どもと旅人が入り混じっている。警鐘を鳴らせば混乱で踏み倒される者が出ると、衛兵長は唇を噛んだ。祭りで酒を飲んだ住民を避難させる時間もなく、門を閉めれば外の畑にいる者が取り残される。
郵便配達人ネリオは、千通配達の報酬で得た確定SSR封筒を開いた。
必要なのは敵を焼く魔法ではない。善意で帰る住民は通し、害意を持つ者だけを一歩も入れない鍵。
封筒には、赤い札が一枚。
《町内留守番札》
中央の掲示板へ貼ると、登録された家と道が一つの家になる。害を加える目的の侵入だけを拒む。
ネリオは広場の掲示板へ札を貼った。
「戸締まりを! ただし鍵は掛けなくていい!」
住民が不思議がる間に、盗賊団が門を破った。
先頭の馬が、何もない空間でぴたりと止まる。馬自身には害意がないため、柔らかな風に押されるだけで傷つかず、背の盗賊だけが鞍から町外へ滑り落ちた。盗賊が横道へ回れば、石畳が玄関の敷居のように足を押し返す。屋根から入ろうとした者は煙突の上で弾かれ、井戸へ毒を投げようとした瓶は投げた本人の袋へ戻った。
一方、畑にいた老夫婦は何事もなく門を通る。泣いて逃げてきた盗賊団の下働きの少年も、武器を捨てた瞬間に町へ入れた。
「俺は戦わない! 帰らせてくれ!」
少年の言葉を聞き、盗賊の中から剣を捨てる者が出た。害意を失った者だけが敷居を越え、広場で衛兵に保護される。首領は朝まで壁を殴り続け、最後には疲れ果てて外で縛られた。
一軒も焼けず、一人も斬られなかった。
祭りの料理は冷めていたが、住民たちは温め直し、戻ってきた者も保護された少年も同じ卓へ座らせた。ネリオは札を剥がそうとする。すると赤い紙は自ら小さく畳まれ、郵便鞄へ収まった。
封の裏に金文字が増える。
《SSR〈町内留守番札〉――防衛対象六百四十二名、負傷者零。非殺傷完全防衛の世界初記録》