登録料一枚の大精算
蓮見珠希が冒険者ギルドの窓口へ出すよう求められた登録料は、金貨一枚だった。
宿に三か月泊まれる額だ。列の前では、払えなかった少年が剣を担保に取られ、泣きながら帰っていった。召喚されたばかりの珠希は、神から渡された餞別をそれで使い切る。鑑定秤は《魔力0》を示した。
「能力なし。稼げもしない者から先に取っておくのが、ギルドの知恵というものだ」
会計試験官は金貨を素早く箱へ落とした。
珠希には、秤の背後に無数の赤い数字が見えた。新人装備代、救助積立、死亡処理費。名目ばかり増え、実際の支出はほとんどない。
能力表示が開く。
《公正精算》
取引一件を一度だけ、本来の価値と契約に照らして完全に精算する。関連する過不足も遡って処理される。
元の世界で経理をしていた珠希は、数字の間違いより、間違いを弱い相手へ押しつける仕組みが嫌いだった。金貨一枚を指した。
「この登録取引を精算します」
《公正精算》を使う。
会計秤が猛烈な速さで傾いた。
《登録事務の適正価格・銅貨三枚》
《過払い・金貨一枚から銅貨三枚を控除》
《関連過払い期間・百二十七年》
金庫の扉が内側から吹き飛ぶ。
金貨、銀貨、宝石、権利証が川のように流れ出した。しかし床へ散らばらない。一枚ごとに光の筋となり、街へ飛んでいく。装備代を二重に取られた冒険者へ、支払われなかった遺族へ、存在しない救助隊へ積み立てさせられた新人へ。名前と利息が空中へ表示され、百二十七年分の帳尻が一息に合っていく。
壁の豪華な装飾が剥がれ、支部長個人の別荘、馬車、指輪まで換金額として消えた。
最後に珠希の掌へ、銀貨と銅貨へ崩された釣り銭が戻る。適正価格の銅貨三枚だけが、きっちり差し引かれていた。
《精算完了》
《不正残高・0》
《会計信頼度・珠希以外0》
会計試験官は空になった箱を抱えたまま固まった。
たまたま監査に来ていた王国財務卿が、二階の席から立ち上がる。彼は空中に残る完璧な精算記録を読み、珠希へ国家会計章を差し出した。
登録料を奪われる側だった新人へ、窓口の全員が帳簿を見せる側になっていた。