白い瓶の順番

小森衣吹は、安定性試験の棚に並ぶ白い瓶を見て、三番だけ中身の高さが違うことに気づいた。

無香料化粧水と微香性化粧水。後輩が試験開始時にラベルを貼り替え、二つの試作品を逆に置いた可能性がある。三か月分の結果は、翌朝の発売判定会議へ提出される予定だった。

無香料品は、香りで体調を崩しやすい人向けに予約を集めている。もし結果を取り違えたまま発売すれば、表示と中身のどちらが正しいか、製造段階まで遡らなければならない。研究室長は「香料の濃度は微量。分析値が規格内なら、瓶の順番は問題にしなくていい」と言った。

衣吹は瓶を開けて嗅ぐことをしなかった。人の感覚で判定すれば、記録にならない。保管前に撮った写真を拡大すると、無香料品の瓶にだけ付く青い成形点が、現在の二番にある。重量記録も二番と三番で逆転していた。

「この試験結果は判定に使えません」

衣吹は会議資料を差し止め、二つの試作品を隔離した。後輩は「全部やり直しになります」と青ざめたが、衣吹は試験の失敗と商品の失敗を分けた。

「三か月を失ったんじゃない。間違った三か月を発売へ使わずに済んだ」

残っている予備試料で再試験を始め、短期間で確認できる項目と、時間が必要な項目を分けた。ラベルは手書きからバーコードへ変え、貼り替えではなく容器そのものに試料番号を刻む。棚へ置くときは、写真と重量を二人で登録する手順にした。

翌朝の会議では、発売延期と再試験計画を衣吹自身が説明した。営業からは予約取消しを心配する声が上がったが、試験番号を特定できない資料へ判定印を押す人はいなかった。予約者へは理由をぼかさず、品質確認に必要な期間を知らせることになった。後輩は会議室の外で待っていた。衣吹が「やり直しを決めたのは私」と伝えると、後輩は初めて、失敗を隠すためではなく再試験を始めるためにノートを開いた。

研究室長は、開発の速度を求める企画部への異動を勧めていた。衣吹はその推薦を辞退し、品質保証部の欠員へ応募した。

再試験の一番目の瓶を棚へ置いたあと、衣吹は異動申請を確定した。