白い袖のカレーうどん
環は白いブラウスのまま、駅前のうどん店へ入った。仕事帰りにカレーうどんを食べる服ではない。それでも、入口の食券機で迷わず押した。
別れた彼は、環の不注意をよく笑った。コップを倒す、鍵をなくす、白い服の日に赤いソースを選ぶ。「一緒にいると退屈しない」と言っていたころは愛情に聞こえた。最後には「生活を任せられない」に変わった。
環が言えずにいる悩みは、彼の言葉が別れの理由ではなく診断のように残っていることだった。自分は誰かと暮らすのに向いていない。好きになっても、いつか世話を焼かせ、呆れられる。そう思うと、次の誘いにも返事ができなかった。
丼から濃い湯気が上がった。環は袖を肘までまくり、紙エプロンをきっちり結んだ。麺を二本ずつ持ち上げ、音を立てずに口へ運ぶ。もちりとした歯触りを確かめる余裕もないほど慎重だった。
十分食べても、白い袖は白いままだった。環は少し誇らしくなった。注意すればできる。彼が間違っていたと証明できる。
その瞬間、短い麺が箸から落ちた。温かい汁が手首へ跳ね、袖口に小さな黄土色の点がついた。環の胸が縮む。やっぱり、と彼の声がした気がした。
おしぼりへ手を伸ばし、途中で止めた。しみは直径三ミリほどだった。誰も見ていない。店員も、隣の客も、環が誰と別れたかさえ知らない。
環は袖を拭かず、残りの麺を持ち上げた。今度は三本まとめてすすった。湯気で目が潤み、歯で噛み切る。汁がもう一滴、紙エプロンへ落ちた。
最後の一本まで食べ、丼を置く。白い袖には小さなしみが一つ残った。失敗の数ではなく、食べ終えたことの印に見えた。
環はおしぼりを畳み、しみの横へ置いた。家で洗えばいい。落ちなければ、袖を折ればいい。
店を出れば、袖のしみは街灯の下でほとんど見えなかった。見えない程度の失敗に、人生全部の名前をつけていたのだ。
誰かと暮らせるかどうかまで、今夜の一滴に決めさせる必要はなかった。